至上最幸の恋
 依頼されている絵の制作もあるから、海外は難しいか。ひとまず国内の人里離れた場所に行こう。いまは、自然の中で自分の心を映したい。

「そういえば、離婚のことは親父さんに話したのか?」

 食後のコーヒーを淹れながら、慧が言った。

「ああ。電話でな」
「なんだって?」
「そうかって、ひと言。それだけだ」

 離婚理由については、価値観が合わなかったとだけ伝えた。
 
 その前に律から父へ連絡をしたようだが、どんな話をしたのかは分からない。ただ、律のことだから、おそらく自分が原因だと言っているだろう。

 父は、どう思ったのか。オレと同じで感情表現が下手なので、よく分からない。

「口に出さないだけで、親父さんもお前のことを心配してるだろ。たまには顔を出してやれよ」

 目の前に置かれたコーヒーを飲みながら、慧の言葉に頷いた。
 
「仕事を辞めたこと、まだ言ってねぇんだよな」
「マジか。本気で専業画家としてやっていくなら、親父さんには話しておけよ」
「分かってるよ」

 言葉にしなくても、父がいろいろなことを胸に秘めているのは分かる。自分と似ているからだ。

 男手ひとつで育ててもらったのに、オレはなにも返せていない。それどころか、この歳になっても心配ばかりかけている。

 旅へ出る前に、一度鎌倉へ帰っておくか。
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