至上最幸の恋
 放っておくと、また先延ばしにしてしまう。こういうことは、早いほうがいい。平日は父も仕事があるだろうから、次の日曜日にさっそく行くことにした。

 鎌倉の街は好きだ。雑多な東京と違い、海も山も近く、時間の流れまでゆるやかに感じる。この景色を見て育たなければ、オレは画家を目指していなかったかもしれない。

 美しい景色を見て、それを自らの手で描くことだけが、自分の心を癒す唯一の手段だった。
 いつかは鎌倉にアトリエを構えて、自分のペースでのんびり制作をしたい。それが昔からの夢だ。

 駅に降り立つと、風の匂いに潮と緑の香りが混ざっているのを感じた。

 いつか腰を落ち着けるなら、やはりここがいい。どうせこの先は、ずっと独り身だろう。それなら、好きな場所に住みたい。落ち着いたら家を探しに来るか。

 実家は鎌倉駅から北へ、歩いて10分ほどの場所にある。周囲は閑静な住宅街で、道が細いこともあって、車もほとんど通らない。この静かさが、昔から好きだった。

 広い庭のある、古い平屋。父ひとりで住むには、寂しすぎるかもしれない。いままで気にしたことはなかったが、ふとそう感じた。

 鍵は持っているが、事前に連絡をしていなかったので、一応呼び鈴を鳴らしてみる。父は家にいるだろうか。

「はい」

 応答があった。

「あ、オレ……瑛士です」
「瑛士?」

 父は驚いているようだ。パタパタと物音がして、すぐに玄関の扉が開いた。
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