至上最幸の恋
 具材を切りながら、ふと子どものころを思い出した。
 母が病に伏せてから、オレはそれまでほとんど触れたこともなかった台所に立つようになった。

 包丁もまともに使えず、火加減も水の量も分からない子どもが必死に作った、ベチャベチャの焼きそば。それを父は、涙目で食べてくれた。

 あの涙には、どんな意味があったのだろう。

 いまではスムーズに料理ができるようになった。たいしたものは作れないが、生活していくには十分だろう。

 オレはひとりでも生きていける。それを見せるために、ここへ来たのかもしれない。

「ほら。少しは野菜も食わねぇと」
「おお、ありがとう」

 少し野菜が多めの焼きビーフンもどきを見て、父の顔がほころんだ。

 食べはじめると、父は無言になる。食事中は喋ってはいけないと、祖父から厳しくしつけられたらしい。もちろん、オレも同じように育てられた。

 昔に比べて、食べるスピードが遅くなったように感じる。いや、もしかすると、味わってくれているのだろうか。

 食べ終わると、父は丁寧に箸を置いて、ゆっくり両手を合わせた。

「ごちそうさま。美味しかったよ」
「お粗末さまでした」

 洗い物は、ふたりでした。会話はなかったが、居心地の悪さはない。父の雰囲気が、どこか丸くなったように感じたからかもしれない。
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