至上最幸の恋
「なんだっけ、夢の愛? たーらーん、らーん……っていうの!」
「リストの『愛の夢』でしょ、夕子さん」

 苦笑しながら、磯崎さんがフォローする。

 その曲名を聞いて、鼓動が跳ねた。
 私にとって、とても大切な曲。瑛士さんとの思い出が、たくさん詰まっている旋律。

 ここで弾いたら、感情が抑えられなくなるかもしれない。

 だけど、聴きたいと言ってくださったのなら、きちんと届けたい。私は、プロのピアニストだもの。

「そうそう、それ! 昔の映画で流れてた曲らしくてさ、うちの旦那がすごく好きなのよね。エリサちゃん、弾ける?」
「ええ、もちろんです」

 プロになってから、この曲を人前で弾いたことはない。だけど笑顔で答えて、静かに鍵盤を見つめた。
 少し早くなった鼓動を落ち着かせるように、胸に手を当てる。そして深呼吸をして、頭の中のノイズを振り払った。

 リストの「愛の夢」は、全3曲ある。

 一般的に知られている第3番は、もとは歌曲として作られ、のちにピアノ独奏曲へ編曲されたもの。その原曲には、「おお、愛しうる限り愛せ」という詩が添えられている。

 いつか、大切な人の墓の前で嘆き悲しむときが来る。だから、愛せるうちに愛しなさい。自分に心を開いてくれる人がいるなら、その人のために尽くし、決して悲しませてはならない。

 これは恋愛に限らず、人間愛を歌ったものだと言われている。
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