至上最幸の恋
 いま、目の前に瑛士さんがいる。私のピアノを、じっと聴いてくださっている。

 そうイメージしながら、大切に大切に「愛の夢」を奏でた。

 最後の音の余韻が、澄んだ空気に溶けていく。そしてゆっくり顔を上げると、夕子さんや女性スタッフさんたちが、目を真っ赤にしていた。

「エリサちゃん~! すごく感動した~!」

 ぱちぱちと手を叩きながら、夕子さんが鼻をすする。

 それを合図にしたように、みなさんが温かい拍手を送ってくださった。

「ありがとうございます。大好きな曲なので、つい気持ちが入ってしまいました」

 頬に残った涙を拭って、立ち上がる。自分の想いを重ねすぎてしまったけれど、みなさんに喜んでいただけたのならよかった。

 目元を赤くした黒瀬さんが、無言のままハンカチをすっと差し出した。
 
「ちょっと外の空気を吸ってきますね」

 ハンカチを受け取って、みなさんに頭を下げる。少し心を落ち着けなくちゃ。

 カフェのドアを開けると、火照った頬を、冷たい風が包み込んでくれた。

 やっぱり「愛の夢」は、もう人前で弾かないほうがいいわね。どうしても感情があふれてしまうもの。

 瑛士さん、いまなにをされているかしら。日本は夜中だから、きっと寝ていらっしゃるわよね。

 ううん、もしかすると、夢中になって絵を描かれているのかもしれない。次はどんな作品を見せていただけるのか、楽しみだわ。

「体が冷えてしまうよ」

 カフェのドアが開いて、磯崎さんが顔を出した。
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