至上最幸の恋
空音のこころ
 景色が滲む。
 瑛士さんと別れた途端、必死に抑えていた感情が溢れ出してしまった。

 やっとやっとお会いできた喜びと、3年間胸に抱いてきた想いが行き場を失った悲しさ。すべてが混ざりあって、頬を伝っていく。

 瑛士さんが、ご結婚されていたなんて。もっと早く帰国していたら、また違った道があったのかしら。

 だけど瑛士さんはとても魅力的な方だし、いつまでも独身なはずはない。きっと賢くて素敵な女性が、瑛士さんの画業を支えているのね。

「またお会いできただけで、十分じゃない」

 自分に言い聞かせるように呟いてみる。それでもいっこうに、視界がクリアにならない。

 私、ちゃんと笑顔でお祝いを言えていたかしら。好きな人の幸せを心から喜べないなんて、情けないわ。
 それでもいまはまだ、感情がコントロールできそうにない。

 西麻布の街をトボトボ歩いていると、ポケベルにメッセージが届いた。モデル事務所からの呼び出しだわ。

 しっかりしなくちゃ。プライベートでなにがあっても、お仕事はきちんとこなす。それがプロだもの。
 ハンカチで目元を拭ったあと、タクシーを拾って恵比寿へと向かった。

「なんだか、目が赤いように見えるけど」

 事務所のドアを開けると、私の顔を見るなりマネージャーの高梨さんが顔をしかめた。
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