始まりは一夜の出会いから
 周りに隠さず好きだと言っているらしく、猛アタックされている事は噂になっていた。

 特にそれで私に何か言う人はいないけど、よく興味本位な質問をされる。


「佐々木さんの事何で振ったの?」とか「付き合わないの?」とか。

 そんな質問ばかりでどの質問にも答えられるわけが無かった。

 佐々木さんを振った事実を話すには、どれも私の過去に触れなきゃいけなくなるから。

 この厄介なトラウマを誰にでも構わず話したいはずがなかった。


「いや、それ男避けでしょ」


 美月が真顔で一言、言い放つ。


「え、男避け?」

「うん、俺が今アタックしててお前らに出番なんてねぇから、手出すなよっていう」

「いや、それはさすがに考えすぎでは?」


 いつものカフェでランチをしながら美月とそんな話をしていた。

 美月の考え過ぎな言葉に全くもって何もしっくりこない。


「いや、考えすぎというか…」


 苦笑いしてそこからは何も言わなかった。

 いつもはっきり物を言う美月が珍しく口を噤む。

 何の事だか知らないけど、男避けとかそもそも寄ってくる男の人いないのに何から避けてるのか。


「あのさ、有咲。元彼だけみたいな男ばっかじゃないし、佐々木さんは確かに遊び慣れてる風に見えるけどさ、付き合いも長いから有咲を裏切る様な事はしないって私が保証出来るよ。気になってるのに拒む必要なくない?」


 美月が言いにくそうに口を開く。

 もちろん美月が言いたい事は理解できる。
 私を心配しての発言な事も。

 だけれどどうも受け入れられない。


「うーん、良い人なのかなとは思うけど」


 持っていた飲み物を机に置いて、美月の発言について真剣に考えてみた。

 今更人を好きになっても、どこかで疑って不安になりながら付き合わなきゃいけなくなる。

 そんな気がして、お互いにしんどい生活を強いる事になりそうとすら思えていた。

 何も無いのに疑われる相手と、何も無いのに疑ってしまう自分。
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