始まりは一夜の出会いから
 その日の仕事終わり、予定がある美月と会社で別れて帰路に就こうと会社を出た。

 そのまま駅に向かっていつも通り歩き出して、前方に人が居ない事を確認してからスマホを少しだけ見るも新くんからの連絡は無し。

 今日は仕事が立て込んだ日だったのか、珍しくお昼から一切返信が無い。

 少し肩を落としてスマホをしまうと突然後ろから抱き着かれて驚く。普通なら暴れて抵抗する所だけど、抵抗しなかったのはシトラスの香りがしたから。


「え、新くん?」

「わ、びっくり。分かるもんなんですね!」


 そう言って顔を覗き込ませてきて、人懐っこい笑顔を見せてきては「ただいま!」と言葉を掛けてきた。

 久し振りに会えて感極まっているのもあるけど、驚きで言葉が中々出てこなかった。


「お、かえりなさい」

「その驚いた顔見たくてこっそり帰ってきちゃいました。帰りも明日だったんですけど、今日帰ったら少しでも長く有咲さんと居れるかなって思って」

「え…、好き」

「何ですか、その不意打ち。やめてください。今ちょろすぎて簡単にときめくんで」


 身体を離すと今度は私の手を繋いで歩き出す。

 まさか今日会えると思っていなかったから何の覚悟もしていなかった。久し振りでこんなの照れるなという方が無理な話だ。
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