始まりは一夜の出会いから
 不安な気持ちばかりが募って私は気付いたら新くんに電話をかけていた。数コール待ち続けてその後、コール音が途絶える。『有咲さん?』と静かな声が聞こえてきて、何だか声を聞くだけでも泣きたくなった。

 どこから話していいかもわからないし、どう問い詰めていいかもわからない。


「あ…、急に電話してごめんね」

『いえ、珍しいですね。どうかしました?』


 話し方はいつもの新くんなのに何考えているか全く理解出来ないの。どういうつもりだったのか、問い詰めるのも怖い。


「…新くん、私に隠してる事、無い?」


 その言葉の後、数秒間沈黙が続く。

 きっとこの発言で私が新くんの転勤に気付いている事分かってくれたはず。

 今、話してくれたらそれで良いから。お願いだから、話して。

 私のそんな願いは新くんの『無いですよ』と言う言葉によって砕かれた。


「…本当に?」

『無いです。あ、もしかして転勤の話聞いちゃいました?それ、俺断るつもりなので』

「断るって、どうして?」

『俺が本社とか、俺以外に行った方が良い人沢山居るし、そんな仕事に対して真剣だったわけじゃないし。俺は仕事よりも有咲さんとここに居る事が大事なので』


 嘘吐き。仕事に真剣じゃなかったなんて嘘。こんなに長い付き合いにもなれば、私にだって新くんの事分かる。



─────新くんは私のせいで本社に行かない選択肢を取った。



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