転生脇役令嬢は原作にあらがえない
 今まで、彼は執事だったから、ポーラの手を取ってエスコートすることはなかった。だからポーラはどきりとする。そんな胸の高鳴りをクレイヴは知ってか知らずか、優し気に目元を緩ませて、待ってくれている。

 そわそわとしながらその手を取ったポーラを、クレイヴは屋敷の中のパーティー用の広間に連れて行った。そこには既に、来客がかけるためのテーブルが並べられ、パーティー用の食器類が覆いをかけて用意されている。親族のみで行うこじんまりとした式の予定だったから、その数は多くはないものの、全て立派なものだ。

「いかがでしょう?」

 食器類にかかった覆いを外して、クレイヴはポーラを窺う。その食器は、ポーラが一番気に入っているものだった。クレイヴは、他にも明日使う予定のブーケの花の種類を教えてくれたり、別の部屋に連れていって、仕上げの終わったドレス、グローブ、ヴェールなどを見せてくれた。

 それらの全てが、ポーラの好みにぴったり合うものばかりだ。何年も一緒に居たクレイヴがポーラの好みを把握していない訳がなかった。

「お嬢様にご満足頂けると思っていますが……」

 完璧な準備をしているのを見せつけて、答えなど判り切っているだろうに、クレイヴはあえてポーラに伺いを立てる。

「……で、でもだって……」

「お気に召しませんか?」

「そんなわけないわ!」

 はじかれたように告げたポーラに対して、クレイヴは首を傾げる。

「では?」

 クレイヴに優しく問いかけられたポーラは、答えを言い淀んだかと思えば、顔を真っ赤にして俯いた。
 ポーラの胸に渦巻くのは、クレイヴと結婚できることになった事実へのこの上ない幸福感ではあるが、それとは別にもう一つの想いがある。

「あなたと結婚できるなんて思ってなかったから……自分磨きをしていないもの……」

 後悔だった。

「お嬢様……」

 驚いたような声をクレイヴがあげたが、その顔をポーラは見ることができない。気の進まない結婚だからと、婚礼のための準備をしてこなかったのはポーラだ。その後悔からじわりと涙が浮かんでしまう。

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