転生脇役令嬢は原作にあらがえない
 わたくしがあげた白旗に、クレイヴはほんのりと笑んで、休憩室へわたくしをエスコートしてくれたのだった。

 身体が辛かった気はしないのだけれど、緊張のせいでいつの間にか疲れていたみたい。会場を抜け出て誰もいない休憩室に来たら、何だか少し、気が抜けてしまったわ。

「さっきより顔色が少し良くなりましたね」

 ソファに腰かけたわたくしの前に回って、手を取りながらクレイヴはわたくしの顔を覗き込む。

「心配をかけてごめんなさい」

「お嬢様が謝ることではありませんよ。私がお嬢様を大事にしたいだけですから」

 クレイヴは当たり前のように言ってくれて、嬉しいけれどすこし照れてしまうわ。

「ありがとう……」

 わたくしがそう言うと、クレイヴはわたくしの手の甲に唇をつけてから、立ち上がる。

「私は飲み物を取ってきます」

「待って、一緒に」

 いて欲しいという言葉わたくしが言う前に、クレイヴは執事さながらの動作でさっと部屋を出ていってしまった。この休憩室の中には、今わたくし以外誰もいないけれど、部屋の前には使用人が控えて入り口を守っているから、他の人が入ってくる心配はないの。だからクレイヴは席を外したのでしょうけれど、わたくしが心配しているのはクレイヴのことよ。もし、このあとクレイヴがロッティ・アーチボルト嬢に会ってしまったら……。

 大人しく待っていた方がいいのは判っているのだけれど、やはり心配でわたくしは部屋を出た。クレイヴと入れ違いになるのを避けるために、入り口の使用人にことづけをしておくのも忘れない。……けれど、もし、もしもロッティ・アーチボルト嬢に出会ってしまっていたら、あの部屋に戻ることはないかもしれないわ。

 胸がざわめくのを抑えながら歩いていると、曲がり角に差しかかったところで、どなたかの話し声が聞こえてきた。

「やはりわたくしのことは、ロッティと呼んでくださらないの?」

 ロッティ・アーチボルト嬢の声だわ。このまま聞いていてはいけない。そうは思うのに、わたくしは足がすくんで、角を曲がれなくなってしまった。

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