転生脇役令嬢は原作にあらがえない
「……あの場では言いませんでしたが……私はもともとスウィフト家の執事をしておりました。その癖、というのでしょうか。爵位が上の血筋の方に、馴れ馴れしくするのは気が引けてしまうのです。ですから、下の名前でお呼びするのはご容赦ください」

 聞いたことのある、台詞だわ。

「まあ! では、婚約者様のことを、『お嬢様』と呼んでいらしたのはそのせいなの?」

「そうなりますね」

「……あの、クレイヴ様。過去に囚われるのはおやめになった方がいいのではないかしら。あなたは伯爵であって、もうポーラ嬢に仕える執事ではありませんもの。『執事』の気持ちを抱えたままでは、あなたの心が辛いでしょう……?」

 これは、『わがままなポーラお嬢様』に振り回されて、爵位を継いだあとも身分が上の人間に対して過剰に怯えてしまっていたクレイヴに対して、原作ヒロインが告げた台詞と同じ。原作ではわたくしが婚約者として出てはいなかったけれど、「過去に囚われるのはおやめになったほうがいい」というのは、全く同じだったわ。

 原作のクレイヴはこのヒロインの言葉に救われ、やっと爵位持ちとして胸を張れるようになり、同時にヒロインに溺れるように想いを寄せるきっかけとなるの。

 ……わたくしはクレイヴを虐めてなんかいない。クレイヴは望んでわたくしの婚約者になってくれた。状況は原作と何もかも違うのに、こんなに不安になるのは、ヒロインの台詞でクレイヴが彼女を愛してしまうのが怖いからなんだわ。

 このまま知らんぷりをしていていいのかしら。いいえ、だめに決まっている。愛しい人に去って欲しくないなら、わたくしだって努力すべきよ! けれど、けれど……足がすくんで動かないわ……!

「そう、ですね……」

 クレイヴが、ロッティ・アーチボルト嬢の言葉に頷いた。やだ、涙が零れそうだわ。わたくしはこんなに弱い人間だったのかしら。

「じゃあ、まずは呼び方から変えてみたらどうかしら?」

 それはロッティ・アーチボルト嬢を『ロッティ』と親し気に呼び捨てにする提案。

「そうですね、口調はすぐには変えられませんが……わかりました」

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