転生脇役令嬢は原作にあらがえない
「ポーラもクレイヴの言葉遣いを気に病んでいたのね。てっきりわたくし、ポーラがクレイヴ様にお嬢様と呼ぶのを強要しているのかと思って変なことを言ってしまったの。クレイヴ様にもポーラにもとっても失礼だったわ。ごめんなさいね」

「え……」

 頬を染めて、気まずそうにしながらもロッティ・アーチボルト嬢は謝ってくれる。それは多分、原作と同じ、彼女の素直さゆえの行動なのだわ。ロッティ・アーチボルトは、いつでも悪気なんてなく、人の裏をかくなんてことをしなかったキャラクターだったんだもの。

「わたくしこそ、立ち聞きなんてはしたないまねをして、申し訳ありません」

「いいえ、婚約者が他の女性と二人で話していたら気になってしまうもの。わたくしの配慮不足だったわ。本当にごめんなさい」

 心からの謝罪に、わたくしは申し訳なくなって首を振った。

「大丈夫です」

 わたくしの言葉に、ぱっと顔を輝かせたロッティ・アーチボルト嬢は、わたくしの手をとった。

「改めて、お友達になってくれるかしら。ポーラ」

 今度は社交辞令ではなさそうなその申し出に、わたくしは驚いてしまう。

 正直に言って、わたくしはロッティ・アーチボルト嬢が怖い。それは『堕ちゆく花たち』の小説のせいだけれど、全てを原作小説と重ね合わせて彼女と距離を置くのは、ロッティ・アーチボルト嬢に失礼なのではないかしら。

「はい。ロッティ嬢」

「ふふ、嬉しいわ。でもロッティ嬢ではなく、そうね、ロッテと呼んで」

 愛称で呼んで、とねだるロッティ・アーチボルト嬢にわたくしは目を瞬かせる。そんなに馴れ馴れしくしていいものかしら。わたくしが困って答えられないうちに、ロッティ・アーチボルト嬢は隣のクレイヴに目をやる。

「クレイヴ様も」

 にこりと可愛らしく微笑んだロッティ・アーチボルト嬢は、クレイヴにも愛称を要求した。その魅力に、普通の男性ならすぐに愛称で呼んでしまうでしょう。原作のクレイヴもこのくだりでロッテと呼ぶようになっていたわ。先ほど浮上したばかりの心が、瞬間に沈んでいくのが判る。

「……せっかくですが、アーチボルト嬢」

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