転生脇役令嬢は原作にあらがえない
 いえ、でもクレイヴは子爵から伯爵になったのだし、賠償金くらい……でも、でも……!?

「百面相をして、一体何を考えているんです?」

 くすくすと笑う声で、わたくしははっとした。クレイヴ本人を目の前にして考え事にふけっていた事実に気付いて、頬が熱くなる。

「ご、ごめんなさい、わたくしったら……」

「何か私に謝らないといけないようなことを考えていたんですか?」

「そうじゃなくて! せっかくクレイヴとお出かけなのに、上の空になったりして……わたくしから誘ったのに」

 わたくしが謝ると、クレイヴはふふ、と笑う。いつも通りの穏やかな微笑みが逆に落ち着かなくなる。わたくしたちが今いるのは、馬車の中。向かい合わせに座っていると、膝が当たりそうでどきどきしてしまう。

「問題ありませんよ。私はポーラの可愛い顔をじっくり観察できたので」

「クレイヴ!」

 ぼっと赤くなってしまった頬を両手で覆って隠し、わたくしは抗議の声をあげる。

「すみません、でも可愛いのは事実ですから。どんな貴女も好きですよ、ポーラ」

 目を細めて言うクレイヴに、わたくしは二の句が告げられなくなる。わたくしの執事をしていたころはこんな風にはっきりとクレイヴから好きと言ってくれることはなかった。慕っている、とは言っていたけれど、いつも困ったような顔だったから、嬉しそうに言われると胸が落ち着かなくなる。

「……わたくしも、大好きよ……クレイヴ」

 小さく答えると、クレイヴは満足そうに頷く。ま、負けたような気持ちになるのは何故かしら!?

「花まつりにポーラと行くのは、久しぶりですね」

「そうね……」

 頬を押さえていた手をそっとおろした。

 わたくしたちが今向かっているのは、毎年春の終わりに開催される花まつり。王都の中でも王城から少し離れたところにある王族所有の庭園は、花まつりの期間だけ一般にも公開されるの。その周辺には屋台がたくさん出て賑わうのよ。クレイヴがまだうちの屋敷にいた頃は、毎年一緒に行っていたわ。

「久しぶりなのに、ふたりきりじゃなくて、ごめんなさい」

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