転生脇役令嬢は原作にあらがえない
 つい拗ねたような声をあげてしまったわたくしに、クレイヴは愉快そうに名前を呼ぶ。

「私が優しいのは、貴女にだけですよ。だって、アーチボルト嬢はポーラのお友達でしょう? それに……付き合うのは今年だけです」

「え?」

 すっとクレイヴの手がわたくしの頬に伸びてきて、その顔が近づく。

「来年以降はずっと、ふたりきりで来ましょう」

 耳元で囁かれて驚いている間に、わたくしの頬にやんわりとあたたかいものが一瞬触れてすぐに離れた。

「く、クレイヴ……!」

 頬に口づけを落とされたのだと理解した瞬間に、赤くなってしまった頬にぎゅっと押さえて声をあげると、クレイヴはウィンクした。

「婚約者なのですからいいでしょう? どうせここには人の目もありません」

「だからって……」

「ああ、着いたようですよ。行きましょう、ポーラ」

 丁度止まった馬車に、クレイヴは立ち上がり、何でもなかったようにわたくしに手を差し出す。

「……クレイヴはずるいわ」

 むくれながらも、わたくしは彼の手に乗せるのに、またどきどきしてしまう。そうして、未だ慣れないクレイヴからのエスコートを受けて、わたくしは花まつりに向かったのだった。


***


「わたくし、花まつりに行くのずっと楽しみにしていましたの!」

 合流したロッテは、浮足立った様子だった。庭園を歩きながら、一つ一つの花に顔を寄せては顔を明るくし、「初めて見る花だわ!」と歓声をあげている。はしゃいでいても、わたくしがお願いしていた帽子はしっかり被ってくれている。

「一緒に来てくれてありがとう、ポーラ」

「ううん」

 振り返った彼女は、頬を薔薇色に染めて嬉しそうに微笑む。

< 32 / 50 >

この作品をシェア

pagetop