転生脇役令嬢は原作にあらがえない
 どうやら王太子殿下の演説が終わり、馬車が再び動いて移動しはじめたところみたい。このまま王都内をパレードして婚約者様のお披露目をするのね。王太子殿下の演説をぼんやりして聞き逃すなんて、わたくしはなんて不敬なのかしら……ううん、それよりも。

 銀髪の伯爵令嬢。やっと思い出したわ。……彼女は、王太子殿下の初恋の女性よ。でも、彼女は原作が開始するよりも前に、亡くなられているはずなのに……!?

 そもそも王太子殿下がこの花まつりにお忍びで来られるのは、初恋の彼女といつか花まつりに一緒に行こうと約束していて、その約束が果たされる前に亡くなられたから、彼女を忍んでここへ来たはずだったのよ。そこで初恋の少女と同じ髪色を持つロッティ・アーチボルトに出会ってしまうのだから……。

 だからロッテには帽子を被って髪を隠してもらっていたのに、そもそも前提が違うのだわ……!? いえ、でもロッテが王太子殿下の婚約者になることはないのだから、彼女と王太子殿下の破滅の道はもうないということでいいのかしら!? どうなっているの……!?

 わたくしがパニックになっている間にも、馬車はゆっくりと進んで、王太子殿下とリタ・ヒギンズ伯爵令嬢が手を集まっている人たちに手を振りながら、幸せのおすそ分けにと、花びらをまいている。馬車がわたくしたちの近くを通る時になって、不意に、王太子殿下がこちらに目を向けられる。瞬間に笑顔になり、隣のリタ・ヒギンズ伯爵令嬢に何やら声をかけると、彼女の髪にさしてある花を、一輪手にとった。

「……君にも幸せを!」

 そう言って王太子殿下が投げた花は、ふわりと魔法の力のような軌道で舞って、するりとクレイヴの胸ポケットに入り込んだ。

「ありがとうございます」

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