転生脇役令嬢は原作にあらがえない
 顔を再び覆って、ロッテは消え入るような声で言った。待って、ロッテの従兄のお兄さま、っていうのは、原作小説に出てきていた、あの、お兄さまよね……? ロッティ・アーチボルトの幼馴染で、長年の恋を拗らせた挙句に告白もせずに思わせぶりなアプローチだけしかせず、王太子殿下と婚約が発表された途端に、逆上してロッティ・アーチボルトを毒殺しようとした、あの……あの従兄のお兄さまが……?

 拗らせすぎてずっと一緒に居たのに、ロッティ・アーチボルトに「好き」と言えなかったばかりに、最初に告白をした王太子殿下に婚約者の座を奪われた、あの……?

「そう、なの……?」

「でもね、お兄さまは、まだわたくしに相応しい男じゃないから、って……相応しい男になったら、改めて求婚するから、待っていて欲しいっておっしゃったの。だから、その……結婚の約束をしているとかではなくて、お兄さまが、勝手に、そうおっしゃってるだけなのよ」

 ロッテは言い訳のような口調で言っているけれど、表情も声も、その従兄のお兄さまに対してどう思っているか、簡単にわかってしまうわ。

「ロッテは、従兄のお兄さまを待ちたいのね?」

「……っそんなこと……! ……そうなの。わたくし、ずっと気付いていなかったけれど、わたくしもお兄さまのこと、ずっと好きだったんだわ。会えなくなってから気付くなんて……」

「会えなくなった?」

 暗く発せられたその言葉に、わたくしの胸が嫌な予感でざわめく。よくよく思い返せば、ロッテのデビュタントで、彼女をエスコートしていたのはロッテのお父様だった。原作では誰がエスコートしていたかは書いてなかったけれど、従兄が王都に来ていたのなら、少なくとも一緒に入場はしていたはず。なのに、彼はいなかった。……もしかして、彼はもう……。

「そうなの……。侯爵令嬢の婿に相応しい力を身に着けて数年のうちに迎えに来るからって、領地で勉強なさっていて、王都に一緒にきてくださらなかったのよ」

「え」

「『ふさわしい』なんて、気にされなくてもよろしいのに。お兄さまったら……」

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