転生脇役令嬢は原作にあらがえない
「だいすきよ、クレイヴ」

 わたくしがそう言うと、決まってクレイヴは「私もお慕いしております」と答えてくれていたけれど、いつも彼は困ったような顔をしていた。そうして年月が過ぎて、わたくしの親愛の言葉が、恋心からくる台詞だとわたくし自身が気づいた後は、わたくしは彼に「大好き」と告げるのはやめてしまった。だって、どんなに好きでも彼は爵位を持たない執事で、わたくしは伯爵令嬢。言えば辛くなるだけだもの。永遠に結ばれることはないわ。それでも、彼はわたくしの傍にいてくれるからそれで良かったの。

 クレイヴの魔力が目覚めたのは、わたくしが十二歳の時だった。部屋に飾っていた花が枯れた時、わたくしが惜しんでいたらクレイヴが花瓶を手に取ったのよ。その瞬間に、花が蘇ったの。

「クレイヴ……その力……」

「驚きました、私には魔力があったのですね」

 そう言う割りには落ち着いた風なそぶりで、「また咲いてよかったですね」と花瓶をクレイヴは元の位置に戻してくれた。

 彼の魔力の目覚めは、小説の中にも描かれていた。その原作通りに進んでいる未来に、わたくしは胸が苦しくなった。原作通りなら、クレイヴはわたくしが十七歳の時に、わたくしの元を去ってしまうから。

 だからつい、こんなことを聞いてしまったの。

「クレイヴはわたくしとずっと一緒に居てくれるわよね? ずっと、離れないわよね?」

「魔力に目覚めたからそんな心配をしているんですか?」

 驚いたような顔のクレイヴはすぐに笑顔になる。

「私がお嬢様の傍を離れるわけないじゃないですか。一生、お傍に居ますよ」

 何を当たり前のことを、とクレイヴが言ったけれど、わたくしは逆に落ち着かなかった。その台詞も、原作小説の通りだったから。

 原作通りにならないように、一生懸命過ごしてきたはずだった。けれど、原作通りにクレイヴはわたくしの元を去ってしまった。きっと、この先も原作通りに動いていくんだわ。クレイヴは原作のヒロインに惹かれるのよ。『ポーラお嬢様』なんか忘れて……。

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