転生脇役令嬢は原作にあらがえない
 わたくしの元を、クレイヴが去って、もう二年は経つ。わたくしは、ただ伯爵令嬢として生きていくしかない。

 脇役も脇役のしがない伯爵令嬢には、前世の記憶チートなんて出来ない。わたくしには魔力もなければ、特殊能力もない。前世の記憶で技術改革なんて狙おうと思っても、そもそもこの世界は魔法の力が便利だから、技術開発なんて必要がないもの。

 そうね、あえてわたくしがしたことをあげるとすれば、花の品種改良には手を出したわ。遺伝子というものを知らず、メンデルの法則をこの世の人たちは知らないから、狙った改良を行えるのは斬新だったみたい。でもそれもクレイヴみたいな能力の魔法の前では無力なのだわ。なんでも魔法でできるから、わたくしの知識なんてあまり意味がないのよね。

 魔法は、本当に便利。クレイヴは、わたくしのお部屋の花に、最後に魔法をかけて出ていったみたい。初めて魔力を花開かせたあの時の花は、今も枯れずにわたくしの部屋に飾られている。その脇には、クレイヴが最後に差し出した花も一緒に飾られている。いつまでも色褪せない薄紅の綺麗な花がいっそ憎らしいのに、彼の居た証はあの花しかなくて、わたくしは未練がましくその花を捨てられない。

 クレイヴのいない時間は過ぎていき、本当に、ただただ、平凡な令嬢が生きていくだけ。

 そして平凡な伯爵令嬢には、平凡な政略結婚が待ち受けているのよ。明日は、顔も知らない婚約者と結婚式を挙げるの。今日はやっとその顔合わせ。

 クレイヴのことをどんなに好きでも、身分社会のこの世界では、執事と令嬢が結ばれるなんて無理だった。それは判っていても、ずっと一緒にいたかった。例えこの先、貴族としての義務を果たすために見知らぬ誰かと結婚しようとも、傍にクレイヴさえいれば耐えられると思っていたのに。

「……クレイヴの、嘘つき」

 ずっと一緒にいるって言った彼は、もういない。


***


 わたくしに伯爵位の婚約者ができたと知ったのは、一カ月前のこと。

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