転生脇役令嬢は原作にあらがえない
有能な元執事は無自覚にフラグを回収する
 クレイヴ・フローリーがスウィフト家に連れてこられたのは、わずかに七歳のことだった。大して裕福でもない子爵家の三男として産まれた彼は、生家にいたころもさして家族に大事にされたわけではない。だから、七歳という幼さで伯爵家に行儀見習いとして出されたのだろう。

 身分の低い貴族の娘が行儀見習いとして位の高い貴族の屋敷で働くことはあるが、子息がこのように他家に出されるのは体のいい厄介払いであることが多い。

 つまり、クレイヴは捨てられたのである。

 そんな状況のクレイヴが、スウィフト家に連れられて、お嬢様に挨拶をしなさいと言われても体裁をとりつくろうことなど当然できなかった。

 家令に連れられてお嬢様に会いに出たのは、雨上がりの後の花壇である。彼の心の中には未だやまない雨が降っているというのに、空は晴れていた。庭に出るために歩くと煉瓦で舗装された道は綺麗だったが、彼の足元は外を歩いてきたときにぬかるみで汚れてしまっている。たどり着いた花壇にいたのは頭のてっぺんからつま先まで高い服に身を包んだ汚れ一つないお嬢様の姿で、その前に立つ薄汚れた自分が更にみじめになった。

 高位の貴族の一人娘なんて、ろくでもないに決まっている。

 それは生家の横暴な兄たちを思い返せばわかりきったことだ。

「誰?」

 淡いオレンジの髪を揺らしながら振り返ったお嬢様の顔を、クレイヴはまっすぐに見つめ返すことができなかったから、そのままお辞儀をした。

「クレイヴです。今日から、ポーラお嬢様の執事見習いとして、こちらでお世話になります」

「そうなの?」

 決められた挨拶をすると、驚いたような声が上がる。まだ幼い声だった。

「ずっとお嬢様のお傍に仕えさせます」

 家令の「ずっと」という言葉に、クレイヴの胸が痛む。自分で判っていても、生家に戻ることはないのだと改めてつきつけられたようで辛かった。いい思い出のある家でなくとも、まだ幼いクレイヴにとっては、家といえばフローリー家だ。

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