転生脇役令嬢は原作にあらがえない
 つまりは子爵位を継いだ上で、爵位を上げることができならポーラを嫁にやると無茶ぶりをしているのだ。けれど、どのみちクレイヴには頷くしかない。このままスウィフト家にいつづければ、執事としてポーラの側にいることはできても、いつか彼女が別の男に嫁ぐのを見届けねばならない。それが嫌なら、自分がどうにかするしかないのだ。

「判りました。必ず、求婚状を送りますから、待っていてください」

「期待しているよ」

 その言葉に応えるようにクレイヴは会釈すると、執務室から出ていこうと背を向けた。その背中に、伯爵の声がかけられる。

「そうそう、ポーラは今でも充分適齢期だけれど、結婚に乗り気じゃなくてね。仕方なく猶予を与えてあげているんだよ。けれど、僕もあの子が心配だからね。ポーラは二十歳までには結婚させようと思っているんだ」

「伯爵様」

 驚いて振り返ったクレイヴに、伯爵は笑ってみせる。

「大丈夫だよ、君を含め男爵以下からの求婚なんて全て断るから。好意があるなんてことも伝えさせるつもりもないから、安心して生家に帰るといい」

 ポーラはこのこの時十七歳だった。つまり、クレイヴに対して三年以内に伯爵位にのぼり、求婚をしてみせろ、さもなくば別の男に嫁がせる、と脅しているのだ。加えて、クレイヴがポーラに想いを告げることをも禁じている。

 これは、下手にポーラを期待させて結婚できなかった時に、想いを引きずらせないための措置だろう。

 そこまでを悟って、クレイヴは内心で溜め息を吐くと、再度恭しくお辞儀した。

「肝に、銘じます」

 そうして、クレイヴはスウィフト家に戻った。ポーラには「ずっと一緒にいるって、言ったじゃない……」と詰られたが、添い遂げる将来のためには仕方がない。別れ際に彼女を抱き寄せて想いを告げてしまいたかったが、それをしてしまえば決心が鈍る気がして、結局クレイヴは伯爵の指示通りにポーラには想いを告げずに、十二年を過ごしたスウィフト家を後にしたのである。


***


 フローリー家は、めちゃくちゃだった。

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