転生脇役令嬢は原作にあらがえない
 わたくしが失恋した場所で婚約者様と顔合わせさせるだなんて、酷い話だわ。こんな仕打ちを受けて、貴族令嬢の義務を果たすべきかしら? どうせわたくしはしがない伯爵令嬢ですもの、わたくし一人くらい、貴族の義務を果たさなくたって、許されるのではないかしら。クレイヴと一緒に居られないのなら、修道院で暮らすというのでもいいかもしれないわ。だってそうすれば、意に染まぬ方と結婚する必要もないでしょう?

「もう、逃げちゃおうかしら……」

「それは困りましたね」

 ぼやきを聞き咎めた声に、わたくしは驚いてしまった。

 はっとして顔をあげたわたくしの目の前に、薄紅色の花びらがふわりと舞う。さっきまでつぼみだったはずの枝先に、たくさんの花が開いて咲き誇っている。それに目を奪われたのは一瞬のことで、わたくしはしなだれた花の影から現れた人に言葉を失った。

「ポーラお嬢様」

 優美な笑顔を浮かべて、わたくしの前に現れたのは、クレイヴだった。

「うそ……どうして、あなたが……」

「私が、ポーラお嬢様の婚約者だからですね」

「でも、あなたは子爵令息、でしょう……?」

 わたくしの婚約者は、伯爵だったはずよ。

「そうでしたね。二年前までは。あなたに縁談を申し込むために、死に物狂いで功績をあげて、爵位をあげたんですよ」

「だって、クレイヴは、わたくしとの約束を破って、わたくしの元から去っていったじゃない。どうして今……」

 どうして、伯爵位の婚約者様との顔合わせの場に、彼が居るの。

「……そうですね。あの時は、ああするしかありませんでした。執事は、伯爵令嬢と添い遂げることはできませんから」

 添い遂げる、という言葉に、わたくしの胸が鳴った。

 一歩近づいたクレイヴは、私に手を差し出す。その手を取ってもいいものかどうか、わたくしは悩む。だって、こんな都合のいい夢みたいなことあるはずがない。これは、花が見せた夢なのかしら?

「これでずっと、あなたのそばに居られる。私をお嬢様のそばに置いてくださいますか?」

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