鏡の中の嘘
鏡の扉は、もう開かない。
でも、千代の残した言葉が、3人の胸に灯っていた。
「……夜凪に、届けなきゃ」
美奈が静かに言った。
「ええ。この言葉は、夜凪の心の鍵ですわ」
美代が手帳を抱えたまま頷く。
「じゃあ、行こう。夜凪の部屋へ」
沙耶が扉に手をかけた。
3人は、そっと夜凪の部屋へと入った。
部屋の空気は、静かで、少し冷たい。
扉をそっと開けた瞬間、3人は言葉を失った。
部屋の隅――
カーテンの影に、夜凪が小さく丸まっていた。
膝を抱え、壁に背を預け、隠れるように。
「……夜凪……」
美奈が、思わずつぶやいた。
でも、夜凪は気づかない。
彼女は、眠っていた。
泣き疲れたように、静かに、深く。
その手には、何枚もの写真の束。
色あせた笑顔。
制服姿の5人。
その中にいる夜凪は、確かに笑っていた。
でも――今の彼女は、違った。
「こんなに……苦しんでたんだ……」
沙耶が、声を震わせた。
「誰にも見せないように、ひとりで……」
美代が、そっと手帳を抱きしめる。
美奈は、夜凪の顔を見つめた。
涙の跡が、頬に残っていた。
服は濡れていて、目元は赤く腫れていた。
「わたし……夜凪のこと、何も知らなかった……」
その言葉に、誰も返せなかった。
ただ、静かに、夜凪の眠る姿を見つめるしかなかった。
彼女がどれだけ傷ついていたのか。
どれだけ、誰かを信じたかったのか。
どれだけ、裏切られたと思っていたのか。
そのすべてが、今、目の前にあった。
「……夜凪……」
美奈の声は、届かない。
でも、その想いは、確かにそこにあった。
3人は、そっと夜凪のそばに座った。
何も言わず、何も触れず。
ただ、彼女の孤独に、寄り添うように。
夜凪は、ゆっくりと目を開けた。
まぶたが重く、頬はひんやりしていた。 枕は濡れていて、手にはまだ写真の束が握られていた。
ぼんやりとした視界の中で、誰かの気配を感じる。
「……っ!」
夜凪は、反射的に身を起こした。
「なに……なんで、いるのよ……!」
声はかすれていたけれど、怒気を含んでいた。
美奈が、そっと言葉を探す。
「夜凪が……心配で……」
「心配?またそれ?勝手に踏み込んで、勝手に覗いて、勝手に“わかってる”みたいな顔して……」
夜凪は、写真を抱きしめながら、睨みつけた。
「わたしのことなんて、誰にもわかるわけない。千代だって、あんたたちだって、結局は“かわいそう”って思ってるだけでしょ」
沙耶が、少しだけ口を開いた。
「そんなこと……」
「あるのよ。わたしは、ずっとそうやって見られてきた。“変な子”って。怖いって。気味悪いって」
夜凪の声は震えていた。
でも、その瞳は、強く、拒絶していた。
「だから、もう誰にも期待しない。誰にも頼らない。――あんたたちが何を言っても、わたしは変わらない」
美代が、静かに言った。
「それでも、わたしたちは、ここにいます」
「勝手にいれば?」
夜凪は、写真をぎゅっと握りしめた。
その手は、少しだけ震えていた。
でも、彼女は顔をそむけたまま、誰にも目を合わせなかった。
「“心を映す鏡は、ひとりでは輝かない”」
美代が静かに言ったその瞬間――
夜凪の肩が、びくりと震えた。
彼女は、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳は、涙で濡れていた。
「……その言葉……」
声はかすれていた。
「それ……千代の……」
美代は、そっと頷いた。
「ええ。千代が、最後に残した言葉です」
夜凪の瞳が揺れた。
でも、その揺れはすぐに怒りに変わった。
「なんで……なんであいつの言葉を、あんたたちが知ってるのよ」
「夜凪……」
「まさか……千代の手帳を読んだの?あいつが隠してたものを、勝手に探ったの!?」
夜凪の声は鋭く、震えていた。
「千代は……この世界から出ようとしてた。わたしを置いて、ひとりで」
「わたしは……それを見つけた。あいつが、わたしのいないところで、出口を探してたことを」
「わたしは、信じてたのに……千代だけは、わたしのそばにいてくれるって……!」
夜凪は、写真の束を握りしめたまま、涙を流した。
「でも、あいつは……裏切った。わたしを、見捨てようとした」
「だから……わたしは……」
言葉が詰まる。
美奈が、そっと問いかける。
「夜凪……千代さんに、何があったの?」
夜凪は、顔を伏せた。
「……わたしが……止めたの」
「この世界から出ようとする千代を……わたしは、止めた」
「千代は、わたしを見て、泣いてた。わたしも、泣いてた。でも……もう、戻れなかった」
「千代は……いなくなった。わたしの世界から、消えた。――わたしが、消した」
沈黙が落ちた。
空気が、重く、冷たく、痛みを含んでいた。
美代は、手帳を胸に抱えながら、静かに言った。
「それでも、千代は、あなたのことを最後まで思っていました。だからこそ、この言葉を残したのです」
「夜凪が、誰かを信じる勇気を持てますように――そう願って」
夜凪は、顔を覆った。
「……そんなの……今さら言われても……」
「わたしは、千代を……」
涙が、また頬を伝った。
でも、夜凪は誰にも助けを求めなかった。
その心は、罪と孤独の霧の中に、深く沈んでいた。
でも、千代の残した言葉が、3人の胸に灯っていた。
「……夜凪に、届けなきゃ」
美奈が静かに言った。
「ええ。この言葉は、夜凪の心の鍵ですわ」
美代が手帳を抱えたまま頷く。
「じゃあ、行こう。夜凪の部屋へ」
沙耶が扉に手をかけた。
3人は、そっと夜凪の部屋へと入った。
部屋の空気は、静かで、少し冷たい。
扉をそっと開けた瞬間、3人は言葉を失った。
部屋の隅――
カーテンの影に、夜凪が小さく丸まっていた。
膝を抱え、壁に背を預け、隠れるように。
「……夜凪……」
美奈が、思わずつぶやいた。
でも、夜凪は気づかない。
彼女は、眠っていた。
泣き疲れたように、静かに、深く。
その手には、何枚もの写真の束。
色あせた笑顔。
制服姿の5人。
その中にいる夜凪は、確かに笑っていた。
でも――今の彼女は、違った。
「こんなに……苦しんでたんだ……」
沙耶が、声を震わせた。
「誰にも見せないように、ひとりで……」
美代が、そっと手帳を抱きしめる。
美奈は、夜凪の顔を見つめた。
涙の跡が、頬に残っていた。
服は濡れていて、目元は赤く腫れていた。
「わたし……夜凪のこと、何も知らなかった……」
その言葉に、誰も返せなかった。
ただ、静かに、夜凪の眠る姿を見つめるしかなかった。
彼女がどれだけ傷ついていたのか。
どれだけ、誰かを信じたかったのか。
どれだけ、裏切られたと思っていたのか。
そのすべてが、今、目の前にあった。
「……夜凪……」
美奈の声は、届かない。
でも、その想いは、確かにそこにあった。
3人は、そっと夜凪のそばに座った。
何も言わず、何も触れず。
ただ、彼女の孤独に、寄り添うように。
夜凪は、ゆっくりと目を開けた。
まぶたが重く、頬はひんやりしていた。 枕は濡れていて、手にはまだ写真の束が握られていた。
ぼんやりとした視界の中で、誰かの気配を感じる。
「……っ!」
夜凪は、反射的に身を起こした。
「なに……なんで、いるのよ……!」
声はかすれていたけれど、怒気を含んでいた。
美奈が、そっと言葉を探す。
「夜凪が……心配で……」
「心配?またそれ?勝手に踏み込んで、勝手に覗いて、勝手に“わかってる”みたいな顔して……」
夜凪は、写真を抱きしめながら、睨みつけた。
「わたしのことなんて、誰にもわかるわけない。千代だって、あんたたちだって、結局は“かわいそう”って思ってるだけでしょ」
沙耶が、少しだけ口を開いた。
「そんなこと……」
「あるのよ。わたしは、ずっとそうやって見られてきた。“変な子”って。怖いって。気味悪いって」
夜凪の声は震えていた。
でも、その瞳は、強く、拒絶していた。
「だから、もう誰にも期待しない。誰にも頼らない。――あんたたちが何を言っても、わたしは変わらない」
美代が、静かに言った。
「それでも、わたしたちは、ここにいます」
「勝手にいれば?」
夜凪は、写真をぎゅっと握りしめた。
その手は、少しだけ震えていた。
でも、彼女は顔をそむけたまま、誰にも目を合わせなかった。
「“心を映す鏡は、ひとりでは輝かない”」
美代が静かに言ったその瞬間――
夜凪の肩が、びくりと震えた。
彼女は、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳は、涙で濡れていた。
「……その言葉……」
声はかすれていた。
「それ……千代の……」
美代は、そっと頷いた。
「ええ。千代が、最後に残した言葉です」
夜凪の瞳が揺れた。
でも、その揺れはすぐに怒りに変わった。
「なんで……なんであいつの言葉を、あんたたちが知ってるのよ」
「夜凪……」
「まさか……千代の手帳を読んだの?あいつが隠してたものを、勝手に探ったの!?」
夜凪の声は鋭く、震えていた。
「千代は……この世界から出ようとしてた。わたしを置いて、ひとりで」
「わたしは……それを見つけた。あいつが、わたしのいないところで、出口を探してたことを」
「わたしは、信じてたのに……千代だけは、わたしのそばにいてくれるって……!」
夜凪は、写真の束を握りしめたまま、涙を流した。
「でも、あいつは……裏切った。わたしを、見捨てようとした」
「だから……わたしは……」
言葉が詰まる。
美奈が、そっと問いかける。
「夜凪……千代さんに、何があったの?」
夜凪は、顔を伏せた。
「……わたしが……止めたの」
「この世界から出ようとする千代を……わたしは、止めた」
「千代は、わたしを見て、泣いてた。わたしも、泣いてた。でも……もう、戻れなかった」
「千代は……いなくなった。わたしの世界から、消えた。――わたしが、消した」
沈黙が落ちた。
空気が、重く、冷たく、痛みを含んでいた。
美代は、手帳を胸に抱えながら、静かに言った。
「それでも、千代は、あなたのことを最後まで思っていました。だからこそ、この言葉を残したのです」
「夜凪が、誰かを信じる勇気を持てますように――そう願って」
夜凪は、顔を覆った。
「……そんなの……今さら言われても……」
「わたしは、千代を……」
涙が、また頬を伝った。
でも、夜凪は誰にも助けを求めなかった。
その心は、罪と孤独の霧の中に、深く沈んでいた。

