【完結】前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?
(妹の先生がついでに教えてくれるだけだけどね。それでも奇跡だわ)
令嬢としての礼儀作法しか躾けられていないクラリスだから、十七歳から突然地理や歴史、はては詩や物語などの教育を突然されても、本来ついていけるはずもない。
妹のジェルメーヌや義母が強く反対しなかったのも、もの知らずのクラリスを笑う気満々だったからだろう。
しかし、クラリスだって実母が生きていたころに基本的な文字は教わっていたし、時間が許す限り読書もしている。しかも日本で教育を受けた記憶はすっごく役に立った。つまり、教師から習うことにも自ら学ぶことにも慣れているのだ。
黙って授業を受けることや、分からないことを質問する。
それは莉子の記憶を持つクラリスには普通だったことだけど、やる気がない妹を教えていた家庭教師には新鮮だったらしい。
「今までどなたかに師事されてたのでは? とても教え甲斐があるお嬢様です!」
と感心されたそうで、意外な娘の優秀さに父は鼻が高かったらしい。
ジェルメーヌと義母からは射殺しそうな目で見られたが、全く気にならなかった。今まで得られなかった学ぶ機会が嬉しくて、新しい知識を得ることが面白くてたまらなかったのだ。
大げさかもしれないが、やっと「人」になれたような、そんな気がした。
バルトのお供で来てくれるガスパーが、マルゴのことを好きなのだと気づいたときには、クラリスが経験したことがないはずの学生時代に戻ったみたいでワクワクした。
(だって、絶対二人はお似合いだもの)
いまのところ大事な乳姉妹は彼に塩対応しかしていないけれど、生まれたときからの付き合いであるクラリスは、それがただのツンデレであることに気づいている。今はツンばかりだけど、彼女がデレる日はそう遠くないと思うのだ。楽しみすぎる。
(そのきっかけをくれたのも、結局はバルトさんだものね)
もともとバルトとは罰ゲームの求婚から始まった関係だったから、本音を言えばあの場限りで終わりになってもおかしくないと覚悟はしていた。クラリスとは十一も年が離れているのだ。大人の対応で、にこやかに別れておしまいになっても全然不思議ではない。
でも友達なら――?
時々お使いで街に出る時に、彼とすれ違うことができればいい。挨拶を交わして、あわよくば、ちょっぴりおしゃべりだってできるかもしれない。
そんなささやかな願いを持ったものの、今のクラリスにとっては高望みだったかもしれないと、寝る前にちょっぴり落ち込んだ。
なのにバルトは本当に、クラリスを大切な友達であるかのように接してくれるようになった。
もちろん、彼にとっては些細な暇つぶし程度のことだろう。
それでもクラリスの空虚な世界に色がついた。とても嬉しかった。