【完結】前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?

4.バルト②

 自称・領主であるエーテ伯爵家の下働きだというクラリスは忙しい。本人がいくら隠そうとしたところで、彼女が騎士団の人間よりもはるかに過酷な生活をしていることに、バルトはすぐに気が付いた。

 丸一日休める日は皆無という、有り得ないほど自由がないクラリスの顔を見るため、バルトは毎日仕事終わりにエーテ家の裏門へせっせと通った。

 一目だけでも会いたい、声が聴きたいと思っているのはバルトだけかもしれないが、いつもバルトの顔を見て花がほころぶように笑うクラリスは、毎日綺麗になっていくのだ。その変化を見逃すなんてできるわけがない。

 門のそばにある大きな木の下で、その日あったことを小さな声で話し合うだけのひと時。
 口づけは手の甲だけだったが、夏の盛りくらいから、頬へお休みのキスを許されるようになった。友達の距離を、ほんの少し縮められたのだ。
 彼女からキスを返してもらった日は、ガラにもなく浮かれていたのだろう。仲間に白状させられた時は、あごが外れそうなほど呆れられたのは言うまでもない。

「ほっぺにキスって……。かあぁ、甘酸っぱいな、おいっ! バルト、おまえいくつよ?」

「二十八だが?」

(いっそ十八に戻れたらいいとは思うけどなっ!)

「ありえない。ほかの女が今のおまえを見たら、絶対俺と同じことを言う。絶対言う! おまえ、バルトの皮をかぶった別人だろ」

「うるせえよ。彼女を怯えさせたくないんだよ!」

(手の甲のキスより、頬のキスのほうが受け入れてくれるのに気づいたのだって大発見なんだぞ! 絶対教えてやらないけどな)

「怯えって……。あー、まあ、お友達、だもんな?」

 同情に満ちた仲間たちの目に、「ほっとけ」とそっぽを向く。

 粗野な騎士の話にも興味を持って耳を傾けてくれるクラリスは、今仲間の間でちょっとしたアイドル扱いだ。そのアイドルへの求婚が実るかどうか、影でこそこそ賭けがされていることに、バルトはあえて気づかないふりをした。

 実際、クラリスに好意を持たれているのは確実なのだ。
 言葉にされたことはない。
 しかし彼女のまなざしも温かな手も声も、明らかにバルトに惚れていると訴えていた。それに気づかないほど、バルトも子供ではない。

 もちろんこちらの好意も隠してはいない。
 でも友人以上の距離に縮められないのは、彼女の中にまだ、怯えや厚い壁のようなものが見え隠れするからだ。

 その理由は、ひょんなことから判明した。
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