【完結】前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?

  ◆

 夏の終わりに、街の北東にある暗き蒼の森で魔獣が大発生した。
 周期的に珍しいことだが、ないわけではない。

「団長、これはかなり、てこずりそうですねぇ」
「そうだな」

 魔獣が街に入ることを防ぐのは人々の安全のためであって、クラリスのためではない。とはいえ、もし一匹でも見逃して彼女に何かあったら、バルトは自身を許せないだろう。

 だからこれはただの義務。ただの仕事。それ以上でもそれ以下でもない。
 そう心を無にして任務にあたっていたが、魔獣に襲われそうになった部下を助け、バルトは左腕から背中にかけて大けがを負った。
 大きな爪で肉をえぐられ、痛みより焼けつくような熱さのあと、沈みゆくような寒さを感じた。

 死を覚悟したとき脳裏に浮かんだのは、見たことがないはずのクラリスの泣き顔だった。

(くっそ。泣くな。俺はおまえを笑わせたいんだよ)

 誰よりも大切で、誰よりも幸せにしたい唯一の女性。
 言葉にしてはいけない想いがもう取り返しがつかないところまで来ていたことを、その時初めて自覚した。
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