【完結】前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?

5.クラリス③

――魔獣討伐に向かった騎士団に負傷者多数。

 領主である父への報告を偶然耳にしてしまったクラリスは、世界が音を立てて崩れていくような気がした。
 なかでも団長であるバルトが重傷を負い、一時は生死をさまよったという。

 あまりのショックに気を失いそうになったが、それに対する父の返事は「そうか」の一言で、くわしい事が分からない。娘であっても父親の執務室に押し入ることなどできるはずもなく、かといって、あとで父に聞いても答えてはもらえないだろう。
 クラリスは何か情報を得ることができないか奔走した。

「一命はとりとめたんだよ」

 ようやく顔見知りの騎士に話を聞くことができたのは、あれから三日もたってからだった。

「団長の近くに運よく治癒士がいてね。出血は多かったけど無事だ」
「そう、ですか」

 へなへなと座り込み、安堵に息を吐く。
 他の騎士に、あやうく腕がもげるところだったのだと軽口を言われ再び血の気が引いたが、件の治癒士は相当優秀だったらしく、傷が少し残るだけだと言われホッとした。

「クラリスちゃん、心配してくれてありがとね。団長丈夫だけど、さすがに今回は回復には時間がかかるらしくてさ、まだ戻れないんだ」
「いえ、教えてくれてありがとうございます」

 できることならば見舞いたいけれど、バルトの療養先は遠い。行動範囲が限られているクラリスが行けるところではなかった。
 いや。例え行けたところで、面会が家族に限定されていると知ってしまえば、ただの友人であるクラリスにはなんの資格もない。

 ただひたすら彼の回復を祈ることしかできなくて、それが歯がゆくて悲しかった。

「求婚されたとき、頷いてしまえばよかった」

 冗談だったと笑い飛ばされることは明白だけど、しつこく婚約者だと言い張っていれば、彼のもとに飛んで行けたかもしれない。
 伯爵令嬢なんてなんの役にも立たない肩書は、さっさと捨ててしまえばよかったのだ。

「でもお嬢様は捨てられなかったですよね」

 ただ一人愚痴を聞いてくれるマルゴが、泣きそうな顔でクラリスの手を握る。

 誰よりもクラリスの立場を、気持ちを、考えを理解してくれる彼女は、クラリスが感情のままに行動できないことも、大事な人に迷惑をかけることもできないと知っていた。

 クラリスが立場を捨てようとしても、責められ、責任を取らされるのは、クラリス以外の人間だ。騎士という仕事に誇りを持っているバルトから、それを奪うような真似など絶対にできるはずがない。

「でも、一目だけでいい。会いたい……。バルトさん……」

 側にいられなくてもいい。遠くからでもいい。無事な姿をこの目で見たかった。
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