【完結】前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?
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秋が深まり、冬が訪れる。
バルトの代わりに、焔騎士団には新しい団長が就任した。
親しくなれたと思っていた騎士たちとは自然と疎遠になったが、唯一ガスパーを通してのみ、マルゴ経由でバルトの様子を知ることが出来た。
「そう。バルトさん、サキュラに行ったの……」
サキュラは、エーテ領をはじめとする十七の小領地を束ねる大領地の都だ。騎士を引退したバルトはここには戻らず、サキュラで働くことになったらしい。
別れの挨拶くらいしたかったとも思うが、日本のように庶民が気楽に使える連絡手段は手紙だけだ。それでも裕福な庶民であれば旅行の機会もあるだろうが、クラリスにも騎士であるバルトにも、そんな自由はない。
「バルトさん、まだ利き手が不自由らしいです」
そう言って、マルゴが預かってきたという手紙を差し出した。
――――心配かけてごめん。絶対に会いに行く。バルト――――
苦労して書いたような筆跡に涙があふれた。
おそらくもう会えない。分かっているのに、会いに行くと言ってくれたバルトの優しさに心が震えた。一枚の紙切れに彼のぬくもりが宿っているような気がして、そっと胸に抱きしめる。
(会いたいです、バルトさん……)
会いたい。あなたの声を聴きたい。
(でも、あなたが生きていてくれただけで充分)
バルトが大怪我を負ったと知った時の恐怖は、二度と味わいたくない。無事生きてくれていれば、それだけでいい。
返事を預かってくれるというので、短い手紙を託した。
騎士団経由で届けるにしても、彼に届くのはきっとずっと先のことだろう。届かない可能性もある。それでもよかった。
彼との思い出は、心の奥に大切にしまっておこう。
消せない気持ちも見ないふりをしていけば、きっといつか思い出になるはずだから。