【完結】前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?

  ◆

 冬が過ぎ、再び春が訪れようとしていた。
 エーテ伯邸では、大領地領主であるリベラ侯爵一行が訪れるということで、その準備に大わらわだ。定期的な訪問があるとはいえ、今回は抜き打ちのような形で予想外の訪問だったのだ。

「連絡が来たのが二日前だぞ。準備に三日しかないとは何事だ」

 父は憤慨していたが、継母が意味深ににっこりと笑った。

「ジェルメーヌを見に来るんじゃないのかしら。リベラ侯爵の末のご子息は、たしかジェルメーヌと同い年ですもの」

 婚約者探しか! と納得したらしい父が張り切りだし、使用人たちを仕切りだす。もちろんクラリスも使用人に交じって準備に奔走した。

 今回は継母の言いつけで、クラリスが客人の前に出ることはない。
 ジェルメーヌだけを見せたい彼女にとって、秋から一気に大人の色気をまとったクラリスは娘の引き立て役にもならず邪魔だと、不快な顔を隠すことがなくなった。
 クラリスとしても裏方のほうが気楽なので、黙って従っている。

(もしかしたら従者の中にバルトさんがいるかもしれないし)

 リベラ侯爵の私設騎士団は、王の近衛騎士団と肩を並べるほど優秀だという。バルトならそこにいてもおかしくないと思うのだ。

 あの手紙以降、バルトの近況はわからない。あえて知ろうとすることもやめたから。
 そうやって彼を忘れようと努力しているが、どうやっても消せない気持ちは仕方がないとあきらめることにした。恋から愛に変わってしまった想いは強すぎるけれど、それでもいつか、時間が解決してくれるだろうことを知っている。

(私《クラリス》にとっては初恋だけど、莉子は何度も恋を経験したもの)

 でも莉子と違ってクラリスに次の恋はない。
 次に上がるのは政略結婚の話だろう。すでにいくつか縁談が来ていて、父が条件のいい相手を吟味しているのには気づいていた。

(初婚の若い男じゃなくて、どこぞのおじいちゃんの後妻がいいって思ってるのよね。ジェルメーヌが玉の輿に乗ったらまた変わるかもしれないけれど)

 でもそんなことどうでもいい。
 今は客人の中にバルトがいるかどうかだけが大事だった。
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