【完結】前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?
◆
翌日。
侯爵の訪問は奇妙だった。
歓迎ムードのエーテ伯爵と妻子を一瞥したリベラ侯爵は、あごをなでた後不思議そうな顔をした。
「エーテ伯代理」
重々しい声と呼びかけられた名に、エーテ伯であるはずの父がびくりと肩を揺らす。お仕着せをまとい、使用人らの後ろで下級メイドのようにして立っていたクラリスは、それを不思議な思いで見た。
(代理? お父様は伯爵ではなかったの?)
意味が分からずクラリスがひそかに首をかしげていると、侯爵が「エーテ伯爵令嬢はどこにいる?」と父に尋ねた。父の横にドレスアップしたジェルメーヌがいるにもかかわらずにだ。
「あの、侯爵様。娘でしたらここに」
遠目でも青くなっている父に気づいていないのか、継母がジェルメーヌの肩を抱いて一歩前に押し出した。
そう。ここで伯爵令嬢と言えば、昨年社交界デビューを果たした彼女に他ならないのだ。間違ってもクラリスのことではない。
なのに侯爵は面白そうに声をあげて笑った。
「それはおまえの娘だろう。わたしは、本物の、伯 爵 令 嬢 が、どこにいるのかと聞いているのだ」
獰猛な獣のような目に射竦められ、継母と妹が「ひっ」と息をのむ音が聞こえた。
(私を探しているの? え、どうして?)
戸惑いながらも使用人のふりをしていると、父がこっそり睨んできたから、こくりと息をのむ。しかし、ジェルメーヌを冷たく一瞥した後、ぐるりと見まわす侯爵とばっちり目が合ってしまったクラリスは、あわてて顔を伏せた。なぜ自分が呼ばれたのかは分からないが、返事をしたら父たちから叱責されるのは間違いない。
(私はメイド。メイドです!)
ここで邪魔をしたら確実に折檻される。政略結婚の相手も決まっていない今なら、どれほど傷つけても構わないと、昔のように継母が張り切って鞭をもってくるかもしれない。
昔打たれた手の甲やふくらはぎを思い出し、ぎゅっと目を閉じた。
継母はクラリスだけではなく、両親を亡くしたマルゴのことも毎回巻き込むのだ。
(あの子、せっかくガスパーに求婚されたんだもの。マルゴのことは絶対守ってみせる)
マルゴの幸せはクラリスの幸せでもある。ガスパーはマルゴに求婚する前に、クラリスの了承も取りに来てくれた。口の堅いマルゴが秘密を打ち明けたのだ。
マルゴのことを大事に思ってくれているのはもちろん、彼女が大切にしてくれるクラリスも尊重してくれる。そんな相手になら、喜んで嫁に出すわ! なんて、母親気分で涙を流したばかりなのだ。
(絶対、傷つけさせない)
使用人たちも息を殺し、どうすべきか分からずにいるのを感じていると、侯爵が不快気に鼻を鳴らした。
「バルト。ご令嬢をここへ」
「はっ」