【完結】前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?
 その短い会話に、クラリスの胸にさざ波のような震えが走った。
 バルトがここにいる。会いたくてたまらなかった人が、すぐそばに!

(でもだめ。見つけないで)

 俯きながらそっと後退りしたが、迷いなくこちらにやってくる足が見えて息をのんだ。

「クラリス」

 囁くような小さな声。その予想外にも甘い声に、クラリスは自分の意思に反して顔を上げてしまった。

(バルトさん)

 きれいに髭を剃って見慣れない騎士服をまとったバルトは、息をのむほどかっこよかった。
 どこも痛そうにはしていない。
 むしろ前よりたくましくなった気がする。
 そして、もっともっとずっと、かっこよくなってる気がする。

(ああ、バルトさんだ)

 彼の目の温かさにホッとした。
 彼はすべて知っているのだと直感が訴えた。

 ぎゅっと握っていた手を開き、少し寂しい気持ちで差し出された彼の手を取る。
 そのままバルトのエスコートで侯爵の前まで行くと、バルトが「クラリス嬢」ですと言い、クラリスはお仕着せのスカートをつまみ、丁寧に礼をした。

「このような姿で申し訳なく存じます。クラリス・エーテです」

 その挨拶に侯爵は、クラリスの全身を見て懐かしそうに目を細めた。
 
「ふむ。ミレーヌによく似てる。クラリス、おじさんを覚えているかい?」

 気さくに声をかけられ、クラリスは慌てて記憶をさぐったが、侯爵が前回訪問した時は母が生きていたころで、クラリスも幼かった。
 逡巡したあと正直に謝ると、侯爵は気を悪くすることもなくにっこりと笑った。

「いや。顔を忘れられるほど長く訪れなかったせいだ。わるかったね」

 親戚のような気さくさに戸惑ったクラリスは、その後の展開にただ驚き、瞬きを繰り返した。
 突然父が捕縛されたのだ。

「エーテ伯爵代理。任務不履行につき、その任を解く」
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