【完結】前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?
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クラリスの父は伯爵ではなかった。
前伯爵はクラリスの母ミレーヌであり、ミレーヌ亡き後は、彼女の血を引くクラリスが後継者だったのだ。
しかしクラリスが子供だったため法に則り、父が伯爵代理となった。
「つまりどう転んでも、クラリス嬢の妹は後継者にはなりえないわけだよ」
馬鹿にしたように妹という単語を吐き出した侯爵は、ジェルメーヌが父の本当の子だと気づいているのかもしれない。
父が爵位を持っているのだと信じていたから、微塵も疑ったことがなかった。昔から仕えてくれていた使用人がいないのは、このことがクラリスに知られないようにするためだったのだろう。
もともと父はエーテ家の遠い親戚筋で、最初は執事見習いとしてエーテ家にきたらしい。
しかし、まじめに働く父に目をかけた祖父が亡くなる前に、娘婿にと結婚を勧めたのだそうだ。手に入るはずのなかった爵位を前にして、父に悪魔が囁いたのかもしれないが、もともと母を裏切っていたのだ。同情の余地はない。
継母はともかく、何も知らなかった妹は真っ青になって支離滅裂なことを叫んでいたけれど、平民に戻ったらこれまでのような贅沢も、狙っていた貴族との結婚もすべてなくなってしまうのが嫌だったのだろうことは分かる。
馬鹿にしていた姉が令嬢だなんて認めないと言っていたが、クラリス自身、まだ現実味がないのだ。
「でも、どうして急にこんな……」
父はうまくやってきたのだと思う。なのに突然バレた理由がわからず首をかしげると、そのきっかけはバルトなのだと教えてもらった。
バルトははじめ、クラリスが伯爵令嬢だとは知らなかった。
偶然事実を知った時は驚いたが、冷静に考えると色々おかしなことに気づいたのだそうだ。
令嬢にもかかわらず家事などに慣れ、手が荒れていること。粗末な服は変装のためと言うには妙になじんでいたと言われ、クラリスの頬が熱くなった。
「クラリス。あなたが跡継ぎである令嬢なら、俺が側にいてはいけないと思ったんだ……」
しかし色々調べてみると、おかしなことがボロボロ出てきた。
話を聞いたエーテ領の古参騎士はエーテ伯について事情を知っていたが、クラリスが虐待されている事実は知らなかったらしい。
クラリスの父は事実を織り込んだ嘘を重ね、すべてをあいまいにしていたらしい。クラリスを政略結婚させようとしてたのも、病弱だったゆえに世間知らずで我儘なクラリスが、勝手にしたことにしようとしてたらしいのだ。教養が高くなったことで、売り込み方法を変える作戦に変えたが、場合によっては駆け落ちをしたとして、ひそかに殺されていた可能性もあった。実際その準備をしていた痕跡も見つかったという。
叩けば出てくる埃が多すぎて、父が生きて外に出てくることは二度とないらしい。
「私は、そんなに憎まれていたのですか……」
ただ嫌われていたならわかる。
でも殺されかけてたなんて想像もしたことがなかったクラリスは、母親の死にも不審な点が見つかったと聞いて強く目を閉じた。
クラリスは母親の生き写しともいえるほどそっくりなのだ。
のちに、父たちは母のことがただ邪魔だったこと、彼女の死後も母親に似てくるクラリスが恐ろしくなったのだと知った。
くだらなくて悲しかった。