【完結】前世を思い出した瞬間、超絶好みの騎士様から求婚されましたが、とりあえず頷いてもいいかしら?

 結婚なんて考えてもいなかったが、決意してみると悪くない考えだと思った。
 女は好きだし、なんなら子供も好きだ。悪友である蒼穹騎士団団長のところみたいに、家中にわちゃわちゃガキがいるのもいい。十分養える甲斐性はあると自負している。

 嫁にするなら二十八歳のバルトと釣り合う、二十代半ばくらいから三十くらいの女がいいだろう。騎士の仕事に理解があって口うるさくなく、一緒にいて楽しければ文句なし。

 罰ゲームで求婚のカードが出たときは、これはさっさと嫁を見つけろという啓示なのだろうと笑ってしまったくらいだ。

 ただ、あくまでゲーム。
 女性に無礼を働く気はさらさらないが、祭りの雰囲気に合わせたただの悪ふざけだったから、相手も十分選ぶつもりでいた。身持ちの堅い娘に無理に迫るつもりは微塵もない。そこは、冗談でうまくあしらってくれる大人の女を探すつもりでいた。

 しかし罰ゲームの札の条件に合う娘を探そうとバルトが振り返った瞬間、一人の女性が目に飛び込んできて、世界から音が消えた気がした。暗がりにもかかわらずクラリスの髪の色はもちろん、彼女の目の色までがはっきり見えた。髪飾りまでが一致したのに気づくまで一秒もかからなかっただろう。

(ああ、この(ひと)だ)

 視線が絡んだ瞬間、全身に体験したことのない衝撃が駆け抜けた。
 ガラにもなく運命を感じた。初めて自分の中の何かが深い穴に落ちるような感覚を覚えたのだ。

(まさか十七才だとは思わなかったけどな)

 そう。バルトにとって誤算だったのは、クラリスが二十代半ばだと思い込んでいたことだ。なのに間近で見れば、彼女が弟と年がそう変わらないように見えて焦った。
 これが罰ゲームであることは間違いなく聞こえていたと思うし、彼女から見れば、厳ついひげの男が突然向かって来たのだ。普通の少女なら確実に怯える。彼女が微動だにせず、食い入るようにこちらを見ているのは、ショックで動けないからだとバルトは考えた。

(くっそ。髭ぐらい剃っておけばよかった)

 魔獣討伐から帰ったその足で祭りに繰り出したため、身ぎれいにはしていたが髭は放置していた。あえて今時流行りの優男から自分を遠ざけようと思っていたのだが、この場合は完全に失敗だ。

(すまん、お嬢さん。本当に悪かった)

 礼儀正しく微笑みを浮かべてくれた少女に小さく謝罪をしたのだが、仲間たちの手前、型通り名前を問うたバルトに、彼女が素直に名前を教えてくれたことに驚いた。しかも手を差し出す仕草は自然で、明らかに令嬢教育を受けているものと分かる。

 しかし、普通の令嬢なら舞踏会に参加しているだろう。そもそも、こんなに荒れた手をした令嬢はいない。だから貴族の家で下働きをしている少女だと推察した。

 もし彼女が令嬢だったなら、十代後半でも結婚適齢期だ。しかし身分的に、バルトの探している嫁の条件には合わない。
 かといって一般庶民だとすると、適齢期まであと六、七年はある。――つまり、彼女は若すぎる。

 そんな年若き女性相手にゲームを続けるか悩んだバルトが、ほぼ無意識に彼女の手の甲へ口づける真似をしてから顔を上げると、クラリスの見せた表情に胸が大きく波打った。

 バルトや仲間が魔獣と戦う騎士だとわかっているだろうに、不浄のものを見るような眼も、鍛え上げた体を侮るような気配もない。
 こちらに向けられた目に浮かぶのはあきらかに敬意で、バルトの心がむずがゆくなった。

(若く見えるだけで、実は二十代だよな? きっとそうだ。そうに違いない)

 そう希望を持って、半分……いや、かなり本気で求婚の言葉を述べ、そんな自分に驚きあきれた。しかし普通なら頬を染めたり恥じらうであろうはずのクラリスが少し悲しそうな顔をしたので、これは振られるものと覚悟した。

 初対面だからおかしくないし、普段なら仲間と笑い合うお約束のような展開でしかない。なのに本音では少しだけ希望を持たせてほしいと、無様にも考えてしまう。

 そんな願いが届いたのだろう。
 彼女はバルトに「友達」になることを提案したのだ。
 バルトのことを知らないからと。

(つまり彼女は、俺のことが知りたいと言っているんだよな?)

 知ってほしいと思った。
 同じくらい彼女のことも知りたかった。

 そして彼女はその言葉の通り、バルトの言葉に常に耳を傾けてくれたのだ。
 彼女を守れる立場になりたいと本気で思うまで、そう時間はかからなかった。
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