女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します

第百六話 思わぬ失言

 それから、アレクサンドは話し始めた。
 アルベリヒ・グラウベルという人物とディトリヒ・ベルナルドという人物がソプレス王国の滅亡に関与し、重大な違反をした可能性があること。それを突き止め、証拠を集め裁判を控えており、それまで彼らを泳がせていたこと。その裁判の証人も襲われており、犯人は恐らく彼らで間違いないこと。
 一通り話されて、イザベラは悔しそうに俯いた。マルグリータも辛そうな表情をしている。

「まさか、そんなことになっていたなんて……何も知らなくて」

「いや、リタには俺が教えなかったんだ。心配をかけさせたくなくて」

「レオナルドは表面上無関係を貫いてもらってる。私からの情報共有のみだし、実際関与はしていないよ。知れば知るほど危険は増えるだろうから、それで正解だ」

 落ち込むマルグリータを、レオナルドは慌てて抱きしめて慰めた。アレクサンドも彼のことを庇ってくれる。二人の言葉に、マルグリータは唇を噛みしめて俯いた。
 イザベラはどうかと思えば、ぎゅっと拳を握り締めて俯いたまま動かない。表情が読めず、何を考えているのか分からなくて心配してしまう。それはアレクサンドも同じだったのだろう。そっとイザベラの肩に手を乗せた。

「離して!」

 その手は勢いよく弾かれてしまう。アレクサンドは目を見開いて驚いていた。

「これも婚約解消のためなんでしょう!? 少し話には聞いていたわ。でも、まさかここまで危ないことになっていたなんて……」

 隣に座り私の腕に抱き着いたまま、イザベラはアレクサンドを睨みつけていた。目には涙が浮かんでいる。

「私にだって関わることだったのに、なんで教えてくれないのよ! なんで私が蚊帳の外なの⁉ アレクサンド様、貴方は……私のことを1つも信頼してくれていなかったということですか⁉」

 叫ぶイザベラの言葉がアレクサンドに刺さる。本来理性的な彼は、どこまでも合理的に動こうとする。今回イザベラに教えなかったのも、マルグリータと同じで知ってしまえば襲われるリスクがあるから。婚約解消に関してはあくまで私とアレクサンドに関わることで、イザベラは関係ないと判断していたのだろう。少ない人数で動いた方が、周囲からは怪しまれない。いかにも理性的に考えそうなことだ。
 しかし、イザベラの考えはそれとは違う。責任感の強い彼女のことだ。こんな大事になるのなら、最初から自分も一緒に責任を背負いたかった。それがイザベラの本心だろう。

「そんなことはないっ! 信頼ではなく、こちらの問題はこちらで済ませようと」

「それを置いてけぼりだというのです! 親友が危ないのに、私にだって関わることなのに、知らん顔なんてできません! それに……」

 アレクサンドの言葉にイザベラも髪付き反論する。私を掴む手に力が入り、腕が痛い。徐々に語尾を小さくしていったイザベラは、俯いて私に縋りついた。

「またこの子が死んでしまったら、私は、どうしたら……」

「イザベラ……」

 小さく呟かれた言葉はこの場にいる他の人間には理解できないだろう。私に記憶はなかったが、どうやら私は前世で一度死んでいるようなのだ。この様子を見る限り、親友だった優子はそれを目撃したのかもしれない。一度親友を亡くしている彼女にとって、再び私が死んでしまうことは到底耐えられるものではない。
 私は震える彼女の肩を抱き寄せた。

「私の方も、黙っていてごめんなさい……」

「すまない、イザベラ。顔を上げてくれ」

 私もアレクサンドと一緒に、謝ることしかできなかった。

「あ、あの~……兄上?」

 そんな私達の背後から声が掛かる。片手を上げて発言しているのはレオナルドだ。隣に控えるマルグリータも、何か言いたげな表情をしている。

「婚約解消とか、聞こえましたけど……まさか、姉上と兄上って」

「「「あっ」」」

 レオナルドの言葉に私達ははっとした。婚約解消を狙っている件は、私たち三人とシヴァ、お父様とルネしか知らないはずなのだ。
 アレクサンドもイザベラも、顔を青ざめさせて今までに見たことの無い表情をして固まっている。現在二人の脳内は、口論の話と婚約解消がバレてしまったことと、どう取り繕おうかと言うことで頭がいっぱいに違いない。唯一まだ冷静になれている私が、説明するしかないだろう。発端も私なのだ。

「ごめんなさい。黙っていたけれど、私はアレクサンド様と婚約する前からずっと、婚約には反対だったの」

 レオナルドとマルグリータが唾を飲む。私の言葉に面食らったようだ。

「アレクサンド様は政略結婚だから仕方がないって言っていたけど、私はずっと前から好きな人がいて……全然諦めていなかったの」

 その言葉にマルグリータは口元に手を当てる。何か思いつくことでもあったんだろうか。彼女の前では、シヴァはずっと女装していたはずだけど。

「それで、婚約解消を狙って動いた結果が、今回の事件よ。元はと言えば、私の自業自得なの。だから、気にしないで欲しいし……期待させていてごめんなさい」

 怪我人として椅子に座ったままだが、私は二人に頭を下げた。彼らは顔を見合わせると頷いた。

「気にしないで下さい。そういうこともありますから」

「あ、ああ。婚約者じゃなくなっても、姉上は姉上だしな」

 そこは変わらないのか。安心したような、逆に周囲を混乱させるから複雑なような……
 頭を悩ませていると、不意に彼らへの意趣返しを思いついた。そっとイザベラの肩に手を乗せると、私は何事もないかのように二人に伝える。

「……で、次の婚約者にとアレクサンド様が熱烈アプローチしているのがイザベラ嬢よ」

 私の言葉にイザベラとアレクサンドが顔を赤くした。うん、二人にはこれくらい以心伝心で仲良くやっていってもらいたい物だ。
 合点が行ったのか、マルグリータは手を叩いて納得した表情をしている。対してレオナルドは本気で驚いているようだ。何故彼はマルグリータのこと以外はこんなにも鈍いのかと呆れてしまった。



 一息つくと、アレクサンドの合図で防音魔法が解かれた。それと同時にドアがノックされる。

「アレクサンド殿下、下手人から情報を得ました」

 どうやら誘拐犯の聴取が終わったようだ。ドア越しに聞こえたその言葉に、アレクサンドは表情を険しくして彼に入ってくるよう促した。
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