女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します

第百九話 明かされていく事実

 読み上げられた罪状は、主に国家反逆罪と誘拐罪。
 指示されていないのにもかかわらず、功績目当てに友好国だったソプレス王国を襲撃したこと。そして、嘘をばらまいたことでソプレス王国の信用を落とし反乱を招こうとしたこと。そんな過去の罪状に追加して、先日の私の誘拐未遂事件。
 一通り二人の罪が裁判官により述べられていくと、アルベリヒは顔を青ざめさせていき、反対にディトリヒは眉間の皺を深めていく。

「以上ですが、アルベリヒ・グラウベル。罪を認めますか?」

「そんなの認められるか!」

 アルベリヒに裁判官が尋ねるも、答えたのはディトリヒだった。

「あんな何年も前の話を、何故今更掘り返すんです⁉ こんなのおかしいでしょう! 我々はあの時活躍した功臣ではないですか!」

「静粛に。今はアルベリヒ・グラウベルに尋ねています……罪を認めますか?」

「……」

 アルベリヒは顔を煽串、俯いたまま答えない。完全に黙秘を貫くようだ。恐怖で声が出ないのか、それとも黙秘を貫いて曖昧にするつもりなのか。後者だとしたら腹が立つ。

「黙秘と言うことですね。分かりました。次にディトリヒ・ベルナルド。貴方は罪を」

「認めないと言ってるだろう!」

 ディトリヒの言葉に裁判官は口を噤んだ。しばらく静寂が訪れるが、すぐに気を取り直して言葉を続ける。

「分かりました。では、証拠と証人を提出していきます」

 呼ばれて出てきたのはヴォルフガングだ。大柄な彼は法廷の中でも群を抜いて目立つ。今日は髪も整え、きっちりと貴族らしい身だしなみをしている。

「名前を確認します」

「ヴォルフガング・バルカスです。ソプレス王国では騎士団長を任されていました」

 ヴォルフガングは有名だったのか、貴族の一部から声が上がる。彼は私の方をちらりと見ると、隣にいるシヴァを心配そうに見ていた。しかし、すぐに視線を前へ戻す。

「まず、事実確認です。11年前、この大陸では大きな飢饉が発生しました。それによりソプレス王国は甚大な被害を受け、隣国や友好国である我が国を頼った。合っていますか?」

「はい、その通りです」

「その際に我が国へ下るか、このまま戦争をするかで意見が分裂し内乱が発生したと、アルベリヒ、ディトリヒ両名から報告を受けています。こちらは合っていますか?」

「いいえ」

 その言葉に再び会場がざわめく。本題はこれからだ。ちらっとシヴァの様子を見ると、唇を噛みしめながらまっすぐ前を向いていた。何かに立ち向かうかのように。

「私が知る限り、内乱などありませんでした。その日私は休暇で屋敷におりましたが、そのような動きがあればすぐに分かるはずです。緊急時には魔法士団が転送魔法で私を城へ送る手はずでしたが、それすらありません。城はいつも通り静かでした」

「なるほど。騎士団長の目から見て、内乱が発生した様子はなかったと」

「はい。私の屋敷は城が見える範囲にあり、そのように武装した人間が集まっている様子は見ていません。むしろ、武装した人間が集まってきたのは内乱があったとされる翌日。リヒハイム王国の方から来ました」

 何度目かのざわめきだった。事件から10年が経過し、当時も今も、ソプレス王国は内乱で自滅したと思われていた。その前提が崩壊したのだから、話を信じていた人々が驚くのもしょうがない。
 会場がざわめいても、シヴァの表情は変わらない。無表情でヴォルフガングの言葉に聞き入っていた。

「そ、そんなのでたらめだ! あんな過去の話、記憶が曖昧になっているだけだろう⁉ 我々が来た時は確かに、内乱で国は荒れていて」

「我々が来た時、とおっしゃいましたね?」

 ヴォルフガングの低い声に、ディトリヒは息を飲んだ。さすが凄まれると圧がある。睨みつけているわけでもないのに、ディトリヒを黙らせるなんて、さすがヴォルフガングだ。

「証拠として提出した、ソプレス王国の帳簿をご確認下さい。そこに客人のリストがあります。そこには確かにディトリヒ・ベルナルドの名前があるはずです。……事件当日の三日も前に、客人として」

「嘘だ!」

 ディトリヒの言葉を無視して、裁判官たちが証拠の書類を確認していく。あれはシヴァがヴォルフガングを迎えに行った時に手に入れてきた物だ。
 少し間をおくと裁判官たちが頷き合う。口上を述べる主幹に合図を送ると、彼は口を開く。

「確かに、客人のリストに名前があります。これはどういうことでしょうか?」

「わ……私が滞在中に内乱が発生したのです」

「先程は来た時には内乱が起きていたと言っていましたが?」

「ぐっ……」

 反論され、証拠もあるためディトリヒはそれ以上何も言えない。アルベリヒは蹲ってしまうのを、背後の騎士に腕を掴まれて立たされていた。

「内乱は発生していなかった、ということで宜しいですか? 異論は?」

 ディトリヒとアルベリヒは黙る。アルベリヒは震えたまま答えない。ディトリヒは舌打ちすると、小さく頷いた。

「彼らの報告に虚偽があったとはっきりしました。内乱が発生していないとすると、内乱で国が崩壊したからソプレス王国を助けて欲しいと我が国にやって来たアルベリヒ・グラウベルの発言にも矛盾が生じます。ソプレス王国から王都まで、馬を走らせても一週間はかかります。しかし、アルベリヒが我が国の王城まで来たのは内乱があったと報告した日から四日後のことでした」

 裁判官の口調は静かだがよく通る。

「早すぎると思われますが、どう思いますか? アルベリヒ・グラウベル」

 話を振られ、アルベリヒはガタガタと震えている。本当に小心者なのだろう。白髪まじりの髪が冷や汗でべっとりと湿っている。

「あ、の……転移魔法を」

「転移魔法は送れても1、2名までです。貴方は使用人を連れて馬車で来ていたと報告が上がっていますが」

「親戚の家に寄って使用人を借りたので、それで……」

「転移魔法を扱えるのは国内でも魔法士団に所属する数名のみです。ソプレス王国でも同様です。どなたにご依頼しましたか?」

 そこまで言われると、アルベリヒは再び俯き話すのをやめた。見苦しい言い訳は終わったようだ。
 ここまでの話は私も知らなかった話だが、酷いものだ。内乱の鎮圧とソプレス王国を手に入れた功績で地位を手に入れた二人。それが全て彼らによる嘘だったのだから。
 リヒハイム王国へ戦争を仕掛けようとしていたとのことで、ソプレス王国の扱いは低かった。国が最低限支援するのみで、貴族の誰もが援助をせず、私が行くまであんなにも放置されていたのだから。それが全て彼らの嘘のせいだとしたら、迷惑をかけられたのはソプレス王国の国民全員のため何十万人にものぼる。
 その中にシヴァはいたのだ。そう気づき、心配になって私はシヴァを見た。彼はあれから全く動かない。静かに私の横で立って控えている。慰める意味で、私はその背をぽんぽんと撫でた。これくらいなら、周囲から見咎められることもないだろう。ちらっとシヴァはこちらを見るも、すぐに視線を前に戻した。

「反論はないと言うことで、話を続けます。内乱もなく、それでもソプレス王国の国王夫妻は亡くなり国は崩壊しました」

 裁判官は言葉を続ける。

「では……国王夫妻は、何故亡くなったのでしょうか」

 裁判官の言葉に、シヴァの体がピクリと揺れた。
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