女装メイドの従者と、婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します
第百十三話 ロミーナの未来
王城の応接間に通されると、そこにはアレクサンド様が座っていた。先に待っていたのだろう。待たせてしまったことに申し訳なくなり、私は頭を下げる。
「ロミーナ嬢、そこに座って」
促されてアレクサンド様と向かい合うようにソファに座る。こうして個別で呼び出されるとは、どんな用事だろうか。帰りに途中まで一緒だったセドリックも心配をしていた。年上なのに、いつも心配をかけてしまって情けない。
私が戸惑っていると、王宮のメイドがさりげなく紅茶を出してくれる。私はそれを一口飲み、一旦落ち着いた。
「それデ、お話とハ……」
「先日の裁判のことは知っているかな?」
「はイ。もちろン」
学園祭中に起こったリリアンナの誘拐未遂事件。それをきっかけに、元々調査していた旧ソプレス王国関連の問題を洗い出した事件だ。侯爵にまで上り詰めた男が失脚したり、今まで学んできた歴史の話がひっくり返されたりと、何かと話題になっている。
それが、私に何の関係が? 不思議に思って首を傾げると、アレクサンド様は私に紙束を差し出してきた。手にして見ると、それは旧ソプレス王国関連の事件の資料のようだ。ざっと目を通していると、とある場所で目が留まる。
「旧ソプレス王国の件に、君の両親が関与している」
察したようにアレクサンド様は言葉を続けた。
そう。その書類には、ディトリヒ・ベルナルドが私兵を伴って移動するのをアマトリアン辺境伯夫妻が無視した。または積極的に送り出した可能性の示唆がされている。
問題のある両親ではあったが、まさかこんなことまで……
呆れると同時に、背筋が泡立つ。この罪が暴かれれば、アマトリアン辺境伯はお終いだ。裁判で裁かれた二人のように、貴族籍の剥奪と領地の取り押さえが待っているだろう。私は何も知らなかったことから減刑はされるだろうが、平民落ちは免れない。
『僕と婚約して下さい』
セドリックの言葉を思い出す。せっかく親を説得して手に入れたという婚約申込書も、指輪も。私が平民になれば全てが無に帰す。彼を裏切ることだけは、どうしてもできない。
「わ、私ハ……どうすれバ、良いのですカ?」
恐る恐る顔を上げてアレクサンド様を見る。声は震えているが、しっかりするんだロミーナ。わざわざ証拠が固まり裁判が開かれる前にこの話を私にした。それには何かしらの意図があったはずだ。
「私ニ、何をお求めですカ?」
私の言葉にアレクサンド様はにっこりと微笑んだ。蕩けそうな笑みだが油断はできない。尚のこと私は姿勢を正す。
「うん、話が早いね。やはり君のような人間は良い……本題だが」
満足したように頷くと、アレクサンド様の顔は真剣な表情に変わる。
「明日から休暇でアマトリアン辺境伯領へ帰省するね? その際に、証拠を持って帰ってきて欲しい」
「証拠ヲ……」
「そう。アマトリアン辺境伯領は遠すぎてね。わざわざ調査のために人を送れば怪しまれる。君が行ってくれるのが一番怪しまれない。もしもこの話を飲んで君が私側に付けば、もちろん減刑するよ。今回の功績があっても君に爵位を授与するのは難しい。平民落ちは免れないだろうし、生活にも困るだろう」
予想される未来をアレクサンド様はつらつらと語る。
「そこでだ。私の推薦状を使って、王宮の文官として働いてみないかい?」
「エ?」
突拍子もない言葉に私は目を見開いた。
犯罪を犯した両親に、平民落ちした貴族の娘。そんな娘が、文官として働いても良いものなんだろうか。
私が戸惑っていると、笑顔でアレクサンド様は言葉を続ける。
「前からステファンの婚約者として以外でも、君を評価はしていたんだ。魔法の技術が苦手でも、それ以外の能力でカバーして成績上位者に食い込む能力。特にレポートの出来は毎回私を凌ぐほどだと、教師陣からは聞いていたよ」
まさか影でそんなに評価されているとは思わなかった。必死に学んだことも、全てが無駄なわけではなかったようだ。がんばりがみとめられていることは素直に嬉しい。
「そんな文官に向いている君を手放すのは惜しい。ステファンとの婚約も解消になるだろうし、行く当てが無くなったら私の所に来なさい」
アレクサンド様は私に手を差し出す。
「学園にはいられなくなる可能性が高い。証拠を集めるだけ集めたら、学園に提出するレポートのことは考えずすぐに王城に来て欲しい。君の安全を確保しよう。その手筈は整っている」
ステファン様のこと、セドリックのこと。両親のこと。色々考えすぎて頭が働かない。しかし、今この提案を飲まなければ、私は路頭に迷うことになる。
本能的に、私はその手を握り返した。アレクサンド様の手にぎゅっと力が籠められる。黄金色の瞳がまっすぐ私を射抜いた。
「交渉成立だ。君用に護衛も従者も準備してある。ぜひ連れ帰ってくれ」
「……リリアンナ嬢も一緒のはずなんでス。それハ、どうすれバ」
「手紙を用意してあるから渡しておいて欲しい。向こうでの宿泊はヴォルフガング殿がいるので問題ないだろう」
ヴォルフガング殿って、旧ソプレス王国にいたあの大柄な人だろうか。確かにシルヴィア嬢の知人だとかで仲が良さそうだった。
昨年のことを思い出し、私は深く頷いた。
「お任せ下さイ。私ガ、両親の罪を暴いてみせまス!」
そして、両親から解放され自由になるのだ。
そう決意しアレクサンド様に宣言したものの、心は揺れる。チャロアイトの指輪が視界の端で輝いていた。
「ロミーナ嬢、そこに座って」
促されてアレクサンド様と向かい合うようにソファに座る。こうして個別で呼び出されるとは、どんな用事だろうか。帰りに途中まで一緒だったセドリックも心配をしていた。年上なのに、いつも心配をかけてしまって情けない。
私が戸惑っていると、王宮のメイドがさりげなく紅茶を出してくれる。私はそれを一口飲み、一旦落ち着いた。
「それデ、お話とハ……」
「先日の裁判のことは知っているかな?」
「はイ。もちろン」
学園祭中に起こったリリアンナの誘拐未遂事件。それをきっかけに、元々調査していた旧ソプレス王国関連の問題を洗い出した事件だ。侯爵にまで上り詰めた男が失脚したり、今まで学んできた歴史の話がひっくり返されたりと、何かと話題になっている。
それが、私に何の関係が? 不思議に思って首を傾げると、アレクサンド様は私に紙束を差し出してきた。手にして見ると、それは旧ソプレス王国関連の事件の資料のようだ。ざっと目を通していると、とある場所で目が留まる。
「旧ソプレス王国の件に、君の両親が関与している」
察したようにアレクサンド様は言葉を続けた。
そう。その書類には、ディトリヒ・ベルナルドが私兵を伴って移動するのをアマトリアン辺境伯夫妻が無視した。または積極的に送り出した可能性の示唆がされている。
問題のある両親ではあったが、まさかこんなことまで……
呆れると同時に、背筋が泡立つ。この罪が暴かれれば、アマトリアン辺境伯はお終いだ。裁判で裁かれた二人のように、貴族籍の剥奪と領地の取り押さえが待っているだろう。私は何も知らなかったことから減刑はされるだろうが、平民落ちは免れない。
『僕と婚約して下さい』
セドリックの言葉を思い出す。せっかく親を説得して手に入れたという婚約申込書も、指輪も。私が平民になれば全てが無に帰す。彼を裏切ることだけは、どうしてもできない。
「わ、私ハ……どうすれバ、良いのですカ?」
恐る恐る顔を上げてアレクサンド様を見る。声は震えているが、しっかりするんだロミーナ。わざわざ証拠が固まり裁判が開かれる前にこの話を私にした。それには何かしらの意図があったはずだ。
「私ニ、何をお求めですカ?」
私の言葉にアレクサンド様はにっこりと微笑んだ。蕩けそうな笑みだが油断はできない。尚のこと私は姿勢を正す。
「うん、話が早いね。やはり君のような人間は良い……本題だが」
満足したように頷くと、アレクサンド様の顔は真剣な表情に変わる。
「明日から休暇でアマトリアン辺境伯領へ帰省するね? その際に、証拠を持って帰ってきて欲しい」
「証拠ヲ……」
「そう。アマトリアン辺境伯領は遠すぎてね。わざわざ調査のために人を送れば怪しまれる。君が行ってくれるのが一番怪しまれない。もしもこの話を飲んで君が私側に付けば、もちろん減刑するよ。今回の功績があっても君に爵位を授与するのは難しい。平民落ちは免れないだろうし、生活にも困るだろう」
予想される未来をアレクサンド様はつらつらと語る。
「そこでだ。私の推薦状を使って、王宮の文官として働いてみないかい?」
「エ?」
突拍子もない言葉に私は目を見開いた。
犯罪を犯した両親に、平民落ちした貴族の娘。そんな娘が、文官として働いても良いものなんだろうか。
私が戸惑っていると、笑顔でアレクサンド様は言葉を続ける。
「前からステファンの婚約者として以外でも、君を評価はしていたんだ。魔法の技術が苦手でも、それ以外の能力でカバーして成績上位者に食い込む能力。特にレポートの出来は毎回私を凌ぐほどだと、教師陣からは聞いていたよ」
まさか影でそんなに評価されているとは思わなかった。必死に学んだことも、全てが無駄なわけではなかったようだ。がんばりがみとめられていることは素直に嬉しい。
「そんな文官に向いている君を手放すのは惜しい。ステファンとの婚約も解消になるだろうし、行く当てが無くなったら私の所に来なさい」
アレクサンド様は私に手を差し出す。
「学園にはいられなくなる可能性が高い。証拠を集めるだけ集めたら、学園に提出するレポートのことは考えずすぐに王城に来て欲しい。君の安全を確保しよう。その手筈は整っている」
ステファン様のこと、セドリックのこと。両親のこと。色々考えすぎて頭が働かない。しかし、今この提案を飲まなければ、私は路頭に迷うことになる。
本能的に、私はその手を握り返した。アレクサンド様の手にぎゅっと力が籠められる。黄金色の瞳がまっすぐ私を射抜いた。
「交渉成立だ。君用に護衛も従者も準備してある。ぜひ連れ帰ってくれ」
「……リリアンナ嬢も一緒のはずなんでス。それハ、どうすれバ」
「手紙を用意してあるから渡しておいて欲しい。向こうでの宿泊はヴォルフガング殿がいるので問題ないだろう」
ヴォルフガング殿って、旧ソプレス王国にいたあの大柄な人だろうか。確かにシルヴィア嬢の知人だとかで仲が良さそうだった。
昨年のことを思い出し、私は深く頷いた。
「お任せ下さイ。私ガ、両親の罪を暴いてみせまス!」
そして、両親から解放され自由になるのだ。
そう決意しアレクサンド様に宣言したものの、心は揺れる。チャロアイトの指輪が視界の端で輝いていた。