【番外編更新】虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ
 そう微笑んで言い切れば、椅子に座っていた公爵様は机を大きな音で叩くのと同時に立ち上がった。

「わざわざ君が苦しむ必要はないんだ! 俺は君に辛い思いをさせたくない――」
 
 その言葉が部屋の空気を震わせる。私もヘンリーも、息を呑むしかなかった。
 彼も無意識に出た言葉だったのか、すぐに口をつぐんで椅子へと座る。公爵様はきっと私のことを慮ってくださっているのだ。後ろでヘンリーの肩が小さく跳ねたのを見て、きっとここまで感情を表に出すのは珍しいことなのだろうと思う。
 だからこそ、こんなに私のことを大切にしてくれる貴方だからこそ……私も役に立ちたいの。

「ヘンリー、私情を抜きにして考えてほしいの。私が伯爵様と連絡を取り合えば、他の王国信者を炙り出せると思うのだけれど。あなたはどう思う?」

 ヘンリーなら正しい答えを出してくれるはず。そう思って彼へ顔を向ければ、ヘンリーは私の意図を理解したらしい。普段と変わらぬ表情で静かに告げた。

「はい、エスペランサ様の仰る通りでございます」
「ヘンリー……!」
「公爵様」
 
 私が呼ぶと、彼は口を閉じ恨めしそうな表情でヘンリーを睨みつける。彼は慣れたものなのか、飄々と受け流していた。でも、事実そうなのだ。夢が叶うと希望を見せれば、心は逸るはず。敵方の油断が、内情に迫る足掛かりになるだろう。

「私は貴方様に守られる女でいるつもりはありません。私自身も貴方様をお守りしたいのです」

 好意的に受け入れてくれた公爵家に報いたい、そう私は強く思っていた。
 今までは自分が認められたい、そんな気持ちが大半を占めていたけれど、今は違う。彼のために、公爵家のために……最終的には受け入れてくれた帝国のために、私は生きていきたいと思っている。
 確固たる決意のためか、眉間に皺ができるほど私は目に力を入れていたらしい。この時の私は『歴戦の猛者』のような表情を浮かべていたと、後からヘンリーに聞いた。

 私の意思が変わらないことを察した公爵様は、ひとつため息をついた後……頭を掻いた。
 
「エスペランサ嬢。本当にいいのか?」
「はい」

 私は笑みをたたえながら、公爵様の目をまっすぐに見る。私はこの意見をひっくり返すつもりはない、と意思表示をして。
 何を考えているのか分からない公爵様の表情。けれども、今の私なら分かる。公爵様が案じてくださっていることを。

「申し訳ないが、君に協力をお願いしよう」
「ありがとうございます」

 ――貴方のために、私は囮になる。
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