【番外編更新】虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ
 金属と金属のぶつかる甲高い音が聞こえるのと同時に、私は何か温かい物に包まれた。そして次に聞こえたのは、相手の男の悲鳴のような声。
 
「なぜだ! 先ほどまで気配は全く無かったはずだ……?!」

 その言葉に恐る恐る目を開けて上を見ると、私を包んでいたのは公爵様だった。私の腰に手を回した公爵様の腕は力強いが……気を使って下さっているのか、苦しくはない。まるで私を離さない、と言わんばかりにマントで私の身体も隠れている。
 
 声だけしか聞こえないが……先刻から予想外のことばかりが発生したのだろう。相手も混乱しているようだった。そんな悲痛な声とは裏腹に、公爵様とは違う空気を読んでいるのか、読んでいないのか分からない声が遠くから聞こえる。
 
「……おやぁ、私の魔道具が効いていたようですねぇ。これは丁度いい研究結果が手に入りましたね」

 どことなく楽しそうな声色で話す男――そう、セヴァルである。

「公爵様、ありがとうございます〜。目の前で実験ができるなんて、最高の職場ですねぇ」
「……良かったな」

 公爵様もどこか呆れ声だ。こんな時でも実験なのか……と改めてセヴァルの研究好きを実感する。問題ないと判断したのだろう、公爵様はマントを私の前から取り払う。真っ暗だった視界が晴れてすぐ目に飛び込んできた光景は、男が拘束されている姿だった。
 私は一歩進もうと足を出したが、公爵様の腕に引き留められてその場にとどめられる。
 
「何が起こるか分からない。私の側にいるように」
「分かりました」
 
 そうよね、私は誘拐されようとしていたのだもの。仕方ないわよね。
 
 公爵様の温もりを私は全身で感じていた。彼には悪いのだけれど……この状態を少し嬉しく思っている私がいる。何故だろうか、と考えてみたけれど……幼い頃のお母様の温かさを思い出すからかもしれない。
 もちろん、お母様と一緒の時の気持ちと同じではない。けれど……私はこの気持ちがどのような名前なのか、未だに確信が持てないでいた。

 少しだけ、彼の逞しい腕にそっと身体を寄せてみる。公爵様はそんな私の行動に驚いていたようだけれど……優しく肩を抱いてくれた。
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