この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
女性絡みのスクープなんて今に始まったことじゃない。現にこれまで、大企業の娘から世界で活躍するモデルに女優まで、ありとあらゆる女性たちと交際の噂がささやかれてきた。

今回のお相手は、北里コーポレーションの一人娘。どの記事でも名前が伏せられていることからも分かるように、東条グループと比べると決して規模の大きな会社とは言いがたい。

大物政治家の娘と婚約報道が出たときだって会見すら開かなかったのに、どういう風の吹きまわしだろうか?

普段は人の行き来すらまばらな歩道沿いにひっそりと佇む、この喫茶店で考えを巡らせていたって、答えなんて出るはずがない。宗高にはどんな狙いがあるのか、とにかくこの目で確かめてみないことには真実は分からないだろう。

「私、今から行ってくるよ」
「その格好で?」 

かなり見通しが良くなったガラス窓に映る、丸い栗色ショートヘアの虚像を立ち上がったまま確認してみる。

上は丸みのある白のダウンジャケットに、下は黒のタイトジーンズ。身長の割には長くスラっと伸びた脚が強調されていることくらいしか、誇れるものはない。そして普段から化粧は気持ち程度にしかしないが、今日はそれすらもしていない。

父親譲りの色白の肌に、線のないすっきりとした縦長の目、そして存在感の薄いささやかな鼻は、どうも化粧映えしないのだ。この寒さで、ふくふくとした頬やくっきりと「M」を形どった唇が、辛うじて薄ピンク色に染まっているのがせめてもの救いだ。

というのも、横に映る顔は凹凸のある目の周りにキラキラとラメが輝き、唇はくっきりと赤く縁取られているから言い訳にしかならないのだろうが……。私たちは今日、とある場所に仕事とはまた別の用があった。

だが、ここにいる全員と同じように肌を刺すような吹雪に耐えられず、逃げるようにこの店内に避難してきたのだ。でも私には東条グループの失墜という、どうしても果たさなきゃならない目的がある。こんなチャンス、絶対に逃すわけにはいかない。

尚美の言葉を跳ね除けるように千円札一枚を机に叩きつけ、勢いそのままに店から駆け足で寒空へと向かって出ていく。

中にはひたすら売れる記事を書いて、大金を稼いでいる記者もいる。だが、私たちのように欲しい情報を探る片手間に、記者をやっていると正直生活をするだけでもかなり厳しい。しかも、今日はすでに予想外の出費が出てしまった。

本来なら電車にでも乗りたいところだが、今日のような日にはそれが正常に動いているかどうかすらもわからない。もちろん会見はそんな気候の気まぐれに付き合ってくれるはずもないし、もはや背に腹はかえられない。

お金のことなんて考える余力が微塵もないように、慣れないスニーカー裏の感覚をまるで当然のように受け入れ、向かってくる風を身で切りながら、とにかく交通量の多い大通りに出る。そしてダメ元で力強く手を伸ばすと、幸いすぐに一台のタクシーが止まってくれた。

「どちらまで?」

「東条グループ本社までお願いします」
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