この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
後部座席に、一人乗る。
ドアが、勝手に閉まる。
車体は、すぐに動き出す。
すごく、あったかい。
でも、私には、ホッと一息吐く暇もない。
すぐにカバンの中から、手探りで見つかるほどの、分厚いメモ帳とボールペンを取り出す。
凍った指で、カチカチとボールペンを鳴らす。
このメモには、どのページを開いても、東条に関する情報が、びっしりと書いてある。
東条家の人々の人となりや交友関係はもちろん、業務にまつわる内部のものしか知らない機密情報まで。
私が、東条を追い始めてから今日この日まで様々なツテをたどって掴んだ、しがないフリーの記者が知り得る情報すべてだ。
でも、私が本当に欲しい情報は、未だどこにも書かれていない。
再び顔を上げたときには、もう雪が降った気配など全くなかった。それに代わって、目の前に見えてくるのは、東条グループ本社。
20階建てのその本社は、多くビルが立ち並ぶ中でも、圧倒的な高さを誇るから、嫌でも一番に目に入る。彼らが会見を開くとなると、決まっていつもこの場所だ。
でも、この場所に近づくことは、これまで一度もなかった。半端な行動で、すべてを台無しにしたくなかったから。だから、東条の足元を掬う確実なチャンスを、遠くからじっと狙っていたのだ。
距離が狭まるにつれて、まるで私を圧倒するように、その建物はどんどん目の前に迫ってくる。ペンを握る指も、いつの間にか、ぴたりと硬直していた。
すると突然、動いていたはずのタクシーが止まる。
ふと、我に返る。
窓の外には、私と同じように会見の情報を聞きつけた記者たちが、カメラを抱えて一斉に押し寄せていた。
「すみません、これ以上進めなくて」
「……いえ、ここで大丈夫です」
思わぬタイミングで、降車することになった。
人混みを掻き分けながら、慌ててメモをしまう。
そして、目の前にあらわれた、見上げるほど大きなオートドア。
ここに立てるまで、何年かかっただろうか。
大きく白い息を吐き、絶対にタダでは帰らないという覚悟を込めて、手のひらをしっかりかざす。
腕章をつけた記者たちは、ものすごい速さで横切っていく。どんどん奥へ、進んでいく。
でも、私は、そうはいかない。
まず、エントランスを通過しなければならない。
二人の女性の視線を浴びながら、カバンの中をガソゴソと漁り出す。名刺を取り出すために。
でも、どうしてかいつもより戸惑ってしまう。
そして、ようやく取り出せた。
一人に、手渡そうとした。
でも、それは、震える指先から、足元に落っこちた。経験のない寒さを理由にできないくらい、ここは暖気で満たされているのに。
肝心な時に現れる、こういう自分の弱さにうんざりとしながら、しゃがみこんだ。
でも、なぜか自分とは違うがっしりとした手が、私の名刺を拾い上げる。
「大丈夫ですか?」
特段と低く落ち着きのある、この声……。
まさかとは思ったが、私があの人の声を聞き間違えるわけがない。
視線を上げた。
高い位置から表情一つ変えずに私を見下ろす。
グレーのタートルネックニットに、黒のスーツを合わせた男。
彼こそが、この巨大な組織のトップとなった、東条宗高である。
「記者…ですか。お手柔らかにお願いしますね」
ドアが、勝手に閉まる。
車体は、すぐに動き出す。
すごく、あったかい。
でも、私には、ホッと一息吐く暇もない。
すぐにカバンの中から、手探りで見つかるほどの、分厚いメモ帳とボールペンを取り出す。
凍った指で、カチカチとボールペンを鳴らす。
このメモには、どのページを開いても、東条に関する情報が、びっしりと書いてある。
東条家の人々の人となりや交友関係はもちろん、業務にまつわる内部のものしか知らない機密情報まで。
私が、東条を追い始めてから今日この日まで様々なツテをたどって掴んだ、しがないフリーの記者が知り得る情報すべてだ。
でも、私が本当に欲しい情報は、未だどこにも書かれていない。
再び顔を上げたときには、もう雪が降った気配など全くなかった。それに代わって、目の前に見えてくるのは、東条グループ本社。
20階建てのその本社は、多くビルが立ち並ぶ中でも、圧倒的な高さを誇るから、嫌でも一番に目に入る。彼らが会見を開くとなると、決まっていつもこの場所だ。
でも、この場所に近づくことは、これまで一度もなかった。半端な行動で、すべてを台無しにしたくなかったから。だから、東条の足元を掬う確実なチャンスを、遠くからじっと狙っていたのだ。
距離が狭まるにつれて、まるで私を圧倒するように、その建物はどんどん目の前に迫ってくる。ペンを握る指も、いつの間にか、ぴたりと硬直していた。
すると突然、動いていたはずのタクシーが止まる。
ふと、我に返る。
窓の外には、私と同じように会見の情報を聞きつけた記者たちが、カメラを抱えて一斉に押し寄せていた。
「すみません、これ以上進めなくて」
「……いえ、ここで大丈夫です」
思わぬタイミングで、降車することになった。
人混みを掻き分けながら、慌ててメモをしまう。
そして、目の前にあらわれた、見上げるほど大きなオートドア。
ここに立てるまで、何年かかっただろうか。
大きく白い息を吐き、絶対にタダでは帰らないという覚悟を込めて、手のひらをしっかりかざす。
腕章をつけた記者たちは、ものすごい速さで横切っていく。どんどん奥へ、進んでいく。
でも、私は、そうはいかない。
まず、エントランスを通過しなければならない。
二人の女性の視線を浴びながら、カバンの中をガソゴソと漁り出す。名刺を取り出すために。
でも、どうしてかいつもより戸惑ってしまう。
そして、ようやく取り出せた。
一人に、手渡そうとした。
でも、それは、震える指先から、足元に落っこちた。経験のない寒さを理由にできないくらい、ここは暖気で満たされているのに。
肝心な時に現れる、こういう自分の弱さにうんざりとしながら、しゃがみこんだ。
でも、なぜか自分とは違うがっしりとした手が、私の名刺を拾い上げる。
「大丈夫ですか?」
特段と低く落ち着きのある、この声……。
まさかとは思ったが、私があの人の声を聞き間違えるわけがない。
視線を上げた。
高い位置から表情一つ変えずに私を見下ろす。
グレーのタートルネックニットに、黒のスーツを合わせた男。
彼こそが、この巨大な組織のトップとなった、東条宗高である。
「記者…ですか。お手柔らかにお願いしますね」