この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
こんなキスのやり方は記憶にない。まるで愛し合う者同士がするようなキスだ。彼の目の色が変わったのはあの瞬間。私が「結婚する」と言ったとき。

きっと私の口先だけの言葉を、彼の中で必死に、心から出た言葉にしようとしてくれているんだろう。その言葉を本当にさえすれば、真実はどうであれ私たちは分かり合ったように見えるのだから。

何度も何度も重ねるうちに、私の固く結ばれた唇はもう慣れたように彼を受け入れる意思を見せ始める。

それに喜んで彼の舌は私の舌を可愛がるようにまとわりついてきて、だらしなく伸びた舌先までチュッと吸われる。

今は振り向かせるための荒々しさはなく、ただ自分を受け入れて欲しいとうかがいを立ててくるようなじっくりとしたキスだ。

でもどうやっても起こった過去は変えることができないし、その過去がある限り私は彼のそんな気持ちに応えられる存在ではない。

いっそのこと考える隙がないくらい抱き潰されていれば、私の中でこんな複雑に感情がせめぎ合うことはなかったのだろう。

かろうじて考える余裕があるくらいにまどろっこしい触れ方をしてくるから、頭の中には決して考えることすら許されない愚かなことも浮かんできてしまう。

「は、ぁっ……頬、熱いね…熱でもある?」

「そう、かも……」

まさか触れる彼の手に胸が高鳴っているから…なんて思いもしないんだろう。いくら言葉ではどんな風に言い繕っても、身体はこうやって襤褸(ぼろ)ばかり出してしまう。

だけど今はどんなに反応したって、私の気持ちはここにはない、と思われているのだから。この方がかえって良かったのかもしれない。

「でも、おかしいね…手はこんなに冷たい……」

私の冷え切った指先を温めるように大きな両手が包みこむ。

「僕の手、温かいでしょ?」

「そうですね…」

「あの男も、触ったんだよな……」

大きな手に包まれた指一本、一本に上書きするように彼の唇が落とされていく。

「まだ、ちょっと震えてる」

「あ……っ」

「もう絶対に、あんな無茶しないって約束して」

「っ……ん……」

「返事は?」

「は、はい……」

まるで絶対に破られてはいけない、誓いのような長い口づけが薬指に刻みつけられる。

「どう?だいぶ落ち着いてきた?」

絶え間なくずっと彼の手に包まれているのに、落ち着けるわけがない。本当は自分を律することに必死だけれど、その場しのぎに軽くうなづいてみせる。

「なら、良かった」

握りしめていたはずの拳は、そんな温もりに溶かされて気付かぬうちに力が抜けていた。

「……他は?」

「ほ、他?」

「あの男に、どこ触られた?」
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