この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
一つ屋根の下で見えたもの
「食べないの?」
「い、いただきます」
起きて間もないからか、はたまた隣にいる彼がそうさせているのか。何を食べても胸がつかえて上手く喉を通らない。
「そうそう、会社行く前にしっかり話し合っておかないとね」
「話し合うって、何をですか?」
「結婚まで、きっと乗り越えなきゃいけないことも多いから」
彼はまるで当たり前のようにその二文字を口にするが、まだ整理のついていない私はいきなりその言葉が降りかかってきて動揺を隠せない。
「け、けっこん…!?エホッ、エホッ……」
「僕なんか変なこと言った?」
「いや…」
「まあ、君のためなら何だって乗り越えてみせるよ」
そう言って大きな口で頬張る彼はなんだかいつになく楽しそうだ。私はこんなにも未来が不安で仕方がないのに。
「食器だけでも、私に洗わせてください」
「良いから、君は大人しく座っていなさい」
肩に置かれた手の力がやけに重くて、私は立ち上がることすら阻まれてしまった。
彼は浮き出た血管が目立つくらいに袖をまくり、時折垂れ下がる前髪をあいた手で払いながら、私たちが使った皿を黙々と洗っている。
完璧に整われた姿ばかり見てきたからこそ、その光景は今までの関係なら到底目にしなかったもので、余計に頭が追いつかなくなる。
「何?じっと見て」
「な、何でもないです」
「そう?てっきり、僕を見てくれているのかと思ったのに。残念だな」
「そ、そんなことあるわけ!」
「まあ、そういうところも可愛いから全然良いんだけどね」
可愛い?私が?昨日から彼のことが益々よくわからない。こんな私にいきなり好きだと迫ってくるし、今だっていきなり可愛いとか言い出すし……昨夜のことを思い出すと、顔に熱が溜まるのが自分でもよくわかる。
そのとき、拠り所だった水流音がぷつりと止まり、それに代わって彼の足音がこちらに向かって近づいてくる。この顔だけは絶対に見られまいと必死で平静を装うが、彼はまるで隠しようがないように私の目の前に座った。
「さて、始めようか」
「は、はい……」
「君はさ、今の僕にとって一番のリスクは何だと思う?」
頬杖をつきながら、逸らさずにじっとこちらを見つめてくるその視線が痛い。私はそんな視線から逃げるように俯いて、彼が求める答えを懸命に考える。
すると何か吹き出したような笑い声が頭上から聞こえてくる。私は何が起こっているのか分からなくて、思わず顔を上げてしまう。
「あははっ…」
「社長?」
「ごめん、ごめん…ちょっと揶揄いすぎたね」
「えっ?」
彼は急に真剣な眼差しになって、一息ついた後にこう切り出す。
「君だよ、君」
「私……?」
「そう。だから1ヶ月。1ヶ月だけ僕にもわがままな夢を見させてほしい」
「1ヶ月…」
「今すぐに諦めろって言うのは、いくらなんでも酷すぎる。だから…それでも、まだ君の気持ちが変わっていなければ、僕も整理をつけられると思うから」
「ほ、本当ですか?」
「その後のことは、今まで通りうちで働くなり、辞めるなり……好きなようにしてくれて構わない」
「じゃあ、それまで私は何を…」
「ん?この家で一緒に暮らしてさえくれれば、それで良いよ」
1ヶ月。という終わりが見えるだけで、先ほどまでのしかかっていたものの重さと比べたら尋常じゃないくらい、背負うものが軽くなった気がする。
「安心した?」
俯いてばかりいた私もいつのまにか彼の目を見ながら話せていることに気づく。
「君の不安そうな顔見るくらいなら、いくらそばにいたくても意味ないからね」
ほら。彼の前ではもう見せかけの鎧なんて通用しなくなっている。1ヶ月…1ヶ月でも長いくらいだけど、それを乗り越えたら元の何のしがらみのない私に戻れるんだろうか。
「でも、わかってる?」
「はい?」
「僕だって勝算がなければ、こんな条件出さないからね?」
そう言って立ち上がった彼は、手のひらを私の頭にふわりと乗せて、自分の存在を焼き付けながらソファにかけられた黒のジャケットに袖を通し始める。
私は今のうちに部屋から出て行こうと彼の前を素早く通り過ぎるが、また腕に何やらおもりを感じる。
「どこ行くの?」
「い、いただきます」
起きて間もないからか、はたまた隣にいる彼がそうさせているのか。何を食べても胸がつかえて上手く喉を通らない。
「そうそう、会社行く前にしっかり話し合っておかないとね」
「話し合うって、何をですか?」
「結婚まで、きっと乗り越えなきゃいけないことも多いから」
彼はまるで当たり前のようにその二文字を口にするが、まだ整理のついていない私はいきなりその言葉が降りかかってきて動揺を隠せない。
「け、けっこん…!?エホッ、エホッ……」
「僕なんか変なこと言った?」
「いや…」
「まあ、君のためなら何だって乗り越えてみせるよ」
そう言って大きな口で頬張る彼はなんだかいつになく楽しそうだ。私はこんなにも未来が不安で仕方がないのに。
「食器だけでも、私に洗わせてください」
「良いから、君は大人しく座っていなさい」
肩に置かれた手の力がやけに重くて、私は立ち上がることすら阻まれてしまった。
彼は浮き出た血管が目立つくらいに袖をまくり、時折垂れ下がる前髪をあいた手で払いながら、私たちが使った皿を黙々と洗っている。
完璧に整われた姿ばかり見てきたからこそ、その光景は今までの関係なら到底目にしなかったもので、余計に頭が追いつかなくなる。
「何?じっと見て」
「な、何でもないです」
「そう?てっきり、僕を見てくれているのかと思ったのに。残念だな」
「そ、そんなことあるわけ!」
「まあ、そういうところも可愛いから全然良いんだけどね」
可愛い?私が?昨日から彼のことが益々よくわからない。こんな私にいきなり好きだと迫ってくるし、今だっていきなり可愛いとか言い出すし……昨夜のことを思い出すと、顔に熱が溜まるのが自分でもよくわかる。
そのとき、拠り所だった水流音がぷつりと止まり、それに代わって彼の足音がこちらに向かって近づいてくる。この顔だけは絶対に見られまいと必死で平静を装うが、彼はまるで隠しようがないように私の目の前に座った。
「さて、始めようか」
「は、はい……」
「君はさ、今の僕にとって一番のリスクは何だと思う?」
頬杖をつきながら、逸らさずにじっとこちらを見つめてくるその視線が痛い。私はそんな視線から逃げるように俯いて、彼が求める答えを懸命に考える。
すると何か吹き出したような笑い声が頭上から聞こえてくる。私は何が起こっているのか分からなくて、思わず顔を上げてしまう。
「あははっ…」
「社長?」
「ごめん、ごめん…ちょっと揶揄いすぎたね」
「えっ?」
彼は急に真剣な眼差しになって、一息ついた後にこう切り出す。
「君だよ、君」
「私……?」
「そう。だから1ヶ月。1ヶ月だけ僕にもわがままな夢を見させてほしい」
「1ヶ月…」
「今すぐに諦めろって言うのは、いくらなんでも酷すぎる。だから…それでも、まだ君の気持ちが変わっていなければ、僕も整理をつけられると思うから」
「ほ、本当ですか?」
「その後のことは、今まで通りうちで働くなり、辞めるなり……好きなようにしてくれて構わない」
「じゃあ、それまで私は何を…」
「ん?この家で一緒に暮らしてさえくれれば、それで良いよ」
1ヶ月。という終わりが見えるだけで、先ほどまでのしかかっていたものの重さと比べたら尋常じゃないくらい、背負うものが軽くなった気がする。
「安心した?」
俯いてばかりいた私もいつのまにか彼の目を見ながら話せていることに気づく。
「君の不安そうな顔見るくらいなら、いくらそばにいたくても意味ないからね」
ほら。彼の前ではもう見せかけの鎧なんて通用しなくなっている。1ヶ月…1ヶ月でも長いくらいだけど、それを乗り越えたら元の何のしがらみのない私に戻れるんだろうか。
「でも、わかってる?」
「はい?」
「僕だって勝算がなければ、こんな条件出さないからね?」
そう言って立ち上がった彼は、手のひらを私の頭にふわりと乗せて、自分の存在を焼き付けながらソファにかけられた黒のジャケットに袖を通し始める。
私は今のうちに部屋から出て行こうと彼の前を素早く通り過ぎるが、また腕に何やらおもりを感じる。
「どこ行くの?」