この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
「荷物、取りに帰らないと…」

「ちょっと待って…」

私は彼に言われたとおりに、しばらく支度が整うのを待っていた。本来なら絶対こうはしないのに…早く、元の自分を取り戻さないと。

「社長。一緒に出ると、怪しまれますよ?」

でもそんな私のけじめを揺るがすように、彼はほころんだ顔で見つめてくる。どうしても、その微笑みには敵わない。

「いつもの君に戻ったね」

「え…?」

「僕だって弁えてるつもりだよ。君にも随分と鍛えられたからね」

「じゃあ、どうして引き留めるんです?」

「それは…君とちょっとでも長く一緒に居たいから?」

最後にネクタイを結び終えると、何も口を挟めないくらいに、玄関先まで背中をグイグイと押される。

「ほら、行くよ」

「ちょ、ちょっと…」

「見送りくらいさせてよ」

背後から乱れた服をピンと伸ばしてくれたかと思いきや、また新たなシワをつくるように腕が回され、首筋には衝動を堪えるように顔を埋めてくる。

「はぁ……ねえ、やっぱり僕も一緒に行こうかな」

「何言ってるんですか…そんなのダメに決まってます…」

「君への気持ちは何ひとつ偽りないのに?」

今私たちの関係が知られてしまえば、後戻りできなくなるじゃないか。そもそもこれは今だけの、その場のしのぎの関係みたいなものだ。私は彼とこんな生活を続ける気なんてさらさらないのに。

「そういう問題じゃ…」

「分かってるよ」

彼も無理に踏み込んでくることは最後までなくて、どこか寂しそうに名残惜しいそうに大人しく離れていく。

それに代わって、ジャケットの腰ポケットに、先ほどまでなかったはずの違和感を感じた。手を入れてみると小さな付箋が一枚出てくる。そこには四桁の数字と十一桁の電話番号が力強く丁寧な彼の字で書かれていた。

「これは……?」

「また、戻ってくるでしょ?」
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