この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
次、この家に戻ってくるときはすべてさっぱり清算してこの心のおもりも取れていますように。そう願いながら、必要最低限の私物を詰め込んだ段ボール箱を抱えて、遮るものがないどこまでも続く広い空ともしばしの別れを告げる。
もちろんキャリーケースを手に引いて移動させる手段もあった。でも何せあれだけセキュリティにうるさい富裕層が集まる場所で、見覚えのない女がキャリーケース片手にうろうろとしていると目立つに決まっている。
「宛名の記入をお願いします」
もちろん書くのは彼のマンションの住所だ。そして再び身軽な体になってその場所に戻る道すがら、偶然スーパーマーケットを見つけて、私は迷いなく立ち寄った。
普段は自炊なんてしないでコンビニ食に頼りきりだから、ずらりと並んだ野菜たちをみるのも何ヶ月ぶりかの話だ。
私はスマホを片手に「初心者でも作れる料理」と検索する。すると一番上に出てきたのが「カレー」だった。ジャガイモ、にんじん、たまねぎ、牛肉、カレールー。書かれた通りの品物を買い物カゴに入れていく。
普通なら失敗しようがない料理なのだろう。でも私が何か作ろうとすると、必ずほのかに苦くて、ほのかにしょっぱい、食べるには忍びない代物が出来上がってしまう。
青々とした空と白い雲の隙間から顔を出す太陽の光が、足元にもう一人の私をつくる。その影は野菜たちが入ったビニール袋を片手に、彼が住む家へ何の抵抗もなく戻ろうとしていて、自分には絶対経験できないと思っていた「幸せ」を一時でも味わっている気分になる。そう、私もいっそのこと、これは都合の良い夢なのだと思うことにしたい。
彼から預かった四桁の番号を入力すると「ピー」という鍵の開く音がひとけのない静かな廊下に響き渡り、私は肩をビクリと上下させる。
いや、突然の物音に驚いたというよりも、この番号が偽りのないものだったことに身が引き締まったのかもしれない。だって、ああ彼は本気なんだということが、これでまた一つ明白になってしまうから。
今朝から彼がずっとそばにいたから、何かに思いを馳せる余裕なんてものはなかった。でも一人になった今は、彼と共に夜を越した寝室の前を通り過ぎると、下腹部に彼のものが入っていた余韻がじわりと蘇ってくる。
彼は今日何時に帰ってくるのだろうか。出来ることなら、なるべく遅い時間に帰ってきてほしい。彼からまた迫られても、断り切れる自信は私にはないから。
このマンションのキッチンに初めて立ち、スマホに映るレシピを見ながらカレーを作り始めた。具材を洗って、切って、炒めて。工程は至ってシンプルなものだ。
でも出来上がったものは、かなり複雑な味をしていて、正直食べられたものじゃない。食べられるけど美味しいとは言えない「微妙な味」を狙っていたが、あまりの出来の悪さに自分が一番驚いている。
辺りを見渡すと鍋やまな板があちこちに転がり落ちていて、手をつけられないほどに散らかり尽くしていた。でももうやってしまったことを隠すには時すでに遅く、「ガチャ」と彼が帰ってきた合図が鳴る。
もちろんキャリーケースを手に引いて移動させる手段もあった。でも何せあれだけセキュリティにうるさい富裕層が集まる場所で、見覚えのない女がキャリーケース片手にうろうろとしていると目立つに決まっている。
「宛名の記入をお願いします」
もちろん書くのは彼のマンションの住所だ。そして再び身軽な体になってその場所に戻る道すがら、偶然スーパーマーケットを見つけて、私は迷いなく立ち寄った。
普段は自炊なんてしないでコンビニ食に頼りきりだから、ずらりと並んだ野菜たちをみるのも何ヶ月ぶりかの話だ。
私はスマホを片手に「初心者でも作れる料理」と検索する。すると一番上に出てきたのが「カレー」だった。ジャガイモ、にんじん、たまねぎ、牛肉、カレールー。書かれた通りの品物を買い物カゴに入れていく。
普通なら失敗しようがない料理なのだろう。でも私が何か作ろうとすると、必ずほのかに苦くて、ほのかにしょっぱい、食べるには忍びない代物が出来上がってしまう。
青々とした空と白い雲の隙間から顔を出す太陽の光が、足元にもう一人の私をつくる。その影は野菜たちが入ったビニール袋を片手に、彼が住む家へ何の抵抗もなく戻ろうとしていて、自分には絶対経験できないと思っていた「幸せ」を一時でも味わっている気分になる。そう、私もいっそのこと、これは都合の良い夢なのだと思うことにしたい。
彼から預かった四桁の番号を入力すると「ピー」という鍵の開く音がひとけのない静かな廊下に響き渡り、私は肩をビクリと上下させる。
いや、突然の物音に驚いたというよりも、この番号が偽りのないものだったことに身が引き締まったのかもしれない。だって、ああ彼は本気なんだということが、これでまた一つ明白になってしまうから。
今朝から彼がずっとそばにいたから、何かに思いを馳せる余裕なんてものはなかった。でも一人になった今は、彼と共に夜を越した寝室の前を通り過ぎると、下腹部に彼のものが入っていた余韻がじわりと蘇ってくる。
彼は今日何時に帰ってくるのだろうか。出来ることなら、なるべく遅い時間に帰ってきてほしい。彼からまた迫られても、断り切れる自信は私にはないから。
このマンションのキッチンに初めて立ち、スマホに映るレシピを見ながらカレーを作り始めた。具材を洗って、切って、炒めて。工程は至ってシンプルなものだ。
でも出来上がったものは、かなり複雑な味をしていて、正直食べられたものじゃない。食べられるけど美味しいとは言えない「微妙な味」を狙っていたが、あまりの出来の悪さに自分が一番驚いている。
辺りを見渡すと鍋やまな板があちこちに転がり落ちていて、手をつけられないほどに散らかり尽くしていた。でももうやってしまったことを隠すには時すでに遅く、「ガチャ」と彼が帰ってきた合図が鳴る。