この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
掛け時計を見ると夜の19時。気づけば外から差し込む日の光はもうそこにはなくて、頭上のライトが私の手元を照らしている。慣れないことを必死になってやっていたからか、いつの間にかこんな時間になってしまっている。
大抵この時間には会食やパーティーの予定が入っているはずなのに。なんで今日に限って早く帰ってきてしまうんだ。
「文乃?」
まるで私を探し求めるように彼はそう名前を何度も呼びながら部屋に近づいてくる。この広い部屋では入口からキッチンの様子まで確認することは不可能なようだ。
昨夜からこの家で過ごして分かったことがある。まず彼は決まって、脱いだジャケットとネクタイをソファの背にかける。今日も定位置でネクタイに手をかけようとしたところで、私とぱちりと目が合う。やはり気づかれてしまったか…。
「待って!動かないでよ?」
まずい。こちらにものすごい勢いで近づいてくる。こんな勝手なことをして、私は何と咎められるのだろうか。
今は出来上がった無惨なものを背で隠すことが精一杯だ。でも彼はそんな私を真正面からいきなり抱きしめてくる。そしてその言葉も拍子抜けするものだった。
「何で返事してくんないの」
「え…?」
「いなくなったかと思うじゃん」
まるで迷子犬が飼い主を見つけたように、甘えた声でそう言われると耳に熱が集まるのが自分でもよく分かる。
これは2世として生まれた彼が背負う宿命なのかもしれないが、はじめから「東条太郎の息子」というレッテルがついて回る。だからこそ、その期待を裏切らない完璧さというか、少なくともこんな弱みは絶対に見せたりはしない。
なんだか「可愛い」というまた新たな不要な感情が芽生えていることに、自分でもかなりの危機感を覚える。
「ん?」
ずっと私の髪に顔を埋めていた彼が、モゾモゾと動き出し、ようやくここ一帯の惨事に気がついたようだ。
「何かあった?」
もっとこう、何したんだ!みたいな強めの言葉が飛んでくるのかと思っていたのに、この有り様を見ても柔らかな話し方はずっとそのままで、私はますます罪悪感に苛まれる。
「ごめんなさい…」
「何で謝るの?」
「実は……」
「ん?」
言いにくそうにしている私を急かすことなく、ただその気持ちが整うのをずっと見守ってくれている。
「料理…失敗しちゃって」
「料理って…あっ、これ?君が作ったの?」
彼は鍋の蓋を開けて、その中身を嬉しそうに確認しようとする。でも私は反射的に見られまいと彼の腕を掴んでいた。そもそも彼に醜態をさらすために作ったはずだったのに、今の私は「見られたくない」という気持ちが先走っている。
「ねぇ、見せて?」
彼はまた顔をこてんと傾けて、子犬がねだるようにそうお願いしてきて、私はいとも簡単にその可愛さに負けてしまう。
「これ、僕の分もある?」
見た目からも匂いからもその味は想像つくはずなのに、彼は顔色ひとつ変えようとしない。それどころか、私の返事を聞く間もなく、長い腕をひょいと上げてスプーンを取り出し、それを口まで運ぼうとしている。
「あの…!」
「食べちゃダメ?」
ほら、またそうやってこちらが有無を言えないことを分かってやっているようにイタズラな笑みを浮かべて、すかさずパクっと頬張る。
「早く、出して下さいよ……」
ああ、やっぱり食べられたものではないよね。私は彼にこんなものを食べさせてしまった申し訳なさから、目線を足元より上げることができない。
「良いね、家に待っている人がいるって」
「え?」
顔を上げるとそこには嬉しさと悲しさをはらんだ、見たことのない表情の彼がいた。
「僕にはないから……こういう記憶」
大抵この時間には会食やパーティーの予定が入っているはずなのに。なんで今日に限って早く帰ってきてしまうんだ。
「文乃?」
まるで私を探し求めるように彼はそう名前を何度も呼びながら部屋に近づいてくる。この広い部屋では入口からキッチンの様子まで確認することは不可能なようだ。
昨夜からこの家で過ごして分かったことがある。まず彼は決まって、脱いだジャケットとネクタイをソファの背にかける。今日も定位置でネクタイに手をかけようとしたところで、私とぱちりと目が合う。やはり気づかれてしまったか…。
「待って!動かないでよ?」
まずい。こちらにものすごい勢いで近づいてくる。こんな勝手なことをして、私は何と咎められるのだろうか。
今は出来上がった無惨なものを背で隠すことが精一杯だ。でも彼はそんな私を真正面からいきなり抱きしめてくる。そしてその言葉も拍子抜けするものだった。
「何で返事してくんないの」
「え…?」
「いなくなったかと思うじゃん」
まるで迷子犬が飼い主を見つけたように、甘えた声でそう言われると耳に熱が集まるのが自分でもよく分かる。
これは2世として生まれた彼が背負う宿命なのかもしれないが、はじめから「東条太郎の息子」というレッテルがついて回る。だからこそ、その期待を裏切らない完璧さというか、少なくともこんな弱みは絶対に見せたりはしない。
なんだか「可愛い」というまた新たな不要な感情が芽生えていることに、自分でもかなりの危機感を覚える。
「ん?」
ずっと私の髪に顔を埋めていた彼が、モゾモゾと動き出し、ようやくここ一帯の惨事に気がついたようだ。
「何かあった?」
もっとこう、何したんだ!みたいな強めの言葉が飛んでくるのかと思っていたのに、この有り様を見ても柔らかな話し方はずっとそのままで、私はますます罪悪感に苛まれる。
「ごめんなさい…」
「何で謝るの?」
「実は……」
「ん?」
言いにくそうにしている私を急かすことなく、ただその気持ちが整うのをずっと見守ってくれている。
「料理…失敗しちゃって」
「料理って…あっ、これ?君が作ったの?」
彼は鍋の蓋を開けて、その中身を嬉しそうに確認しようとする。でも私は反射的に見られまいと彼の腕を掴んでいた。そもそも彼に醜態をさらすために作ったはずだったのに、今の私は「見られたくない」という気持ちが先走っている。
「ねぇ、見せて?」
彼はまた顔をこてんと傾けて、子犬がねだるようにそうお願いしてきて、私はいとも簡単にその可愛さに負けてしまう。
「これ、僕の分もある?」
見た目からも匂いからもその味は想像つくはずなのに、彼は顔色ひとつ変えようとしない。それどころか、私の返事を聞く間もなく、長い腕をひょいと上げてスプーンを取り出し、それを口まで運ぼうとしている。
「あの…!」
「食べちゃダメ?」
ほら、またそうやってこちらが有無を言えないことを分かってやっているようにイタズラな笑みを浮かべて、すかさずパクっと頬張る。
「早く、出して下さいよ……」
ああ、やっぱり食べられたものではないよね。私は彼にこんなものを食べさせてしまった申し訳なさから、目線を足元より上げることができない。
「良いね、家に待っている人がいるって」
「え?」
顔を上げるとそこには嬉しさと悲しさをはらんだ、見たことのない表情の彼がいた。
「僕にはないから……こういう記憶」