この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
父にとって、文乃は心底疎ましい人間なのだろう。でも僕はその事実を聞いても、裏切られたとは、微塵も感じなかった。

むしろその事実は、僕に力をくれるものでしかなかった。彼女に残る優しさの面影に、僕は無性に惹かれたのだと、すべてが腑に落ちた。とにかく胸の中は喜びでいっぱいだった。

「だから、僕は彼女がこんなにも好きなのかもしれないですね」

「好き?またそんな馬鹿げた感情に惑わされているのか?忘れたとは言わせないぞ。お前のせいで彼らがどうなったのか」

そうだ。彼女が離れていくのも無理はない。僕のせいで、文宏さんが犠牲になったのは事実なのだから。被害者の彼女が、これ以上重い荷物を背負う必要なんてない。

僕がやってきたことが彼女との未来に繋がらなかったとしても、もはやそれで良いと思えた。僕がこのまま手を下すことで、彼女がこれ以上傷付かずに生きていけるのなら。愛する女性を、守れるのなら。彼女がくれた力を、証明できるのなら。それだけで喜ぶべきことじゃないか。

「先代。責めるならご自身を責めるべきです。あなたの行いが、全ての結果を招いたんですから」

僕にもまだ、息子としての感情が残っていたらしい。自ら非を認めるチャンスを最後に与えてみたが、やっぱり父は声を荒げながら目につく物すべてに感情をぶつけて、彼女に一切の責任を転嫁しようとする。

「あの女か?お前にそんなくだらないことを言わせるのは!」

彼に何を言っても無駄なのは、正直もう分かり切っていた。でも僕は、大人をただ信じることしかできなかった無力のあの頃とは違う。意思を行動にできる力があるのだから。彼女にその力をもらったのだから。

「社長の望みは分かりました。その通りに準備を進めます」

「……良いか。あとはこちらで始末しておくから。お前も、もうあんな女のことは忘れてしまいなさい」

父のその恐ろしい言葉と荒れ果てた室内が僕の前に痛々しく残る。でも、ただうずくまって、そんな目の前の現実から目を背けることしかできない、あの頃の僕はもういない。僕の足は気付けば、前へと進んでいた。

言われなくても、僕は自分の意思でそうするつもりだ。もっと、もっと、言葉を交わしておけば、彼女をここまで苦しめずに済んだのだろうか。振り返ると悔やむこともたくさんあるけれど、もしあれ以上の言葉を交わしていたら、僕はあんなにも幸せな時間を彼女の隣で過ごせなかったかもしれない。

僕らが過ごした時間にはちゃんと意味がある。彼女を信じていて良かった。信じていたから、不敵になった僕はこうして彼女を救えるのだから。

「秀明、いるか?電話を一本頼みたいのだが」

「だから望月にはご自分で……」
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