この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
この恋は必要でした
1ヶ月ぶりに家の網戸を開けると、長時間閉め切ったまま滞留していた部屋の空気も、たちまち夏の匂いに変わった。本来の日常が再び動き出す、ただそれだけ。

なのに、なぜか以前までそこにあったはずのものが、あちこちから消えている。彼のそばから逃げるように出てきたばっかりに、荷物のことは頭からすっかり抜けてしまっていた。

ずっと使っていたものが見当たらないたびに、それらは彼の家で、彼の腕の中で抱かれていたことを、無理やりにでも思い出させようとしてくる。その都度、一瞬何かに遮られるように私の時間が止まってしまう。

一人で踏み込んで、一人で傷ついただけ。私さえこの記憶に蓋をすれば、すべてはうまく収まる。頭ではわかっているのに……。

「まだ」人々が動き出す時間にはかなり早い。窓の外からは朝日が登り始めてきたばかりだ。
「まだ」突き抜けるような空からは、ギラギラと熱い日差しが照り付けている。

かろうじて残っているわずかな時間にすがって、とっくに大きな太陽は漆黒の暗闇に隠れているのに、私はたった一つの発信ボタンさえ、いつまでも押せずにいた。

そんな私を正しい世界に戻すように、その終わりは向こうから簡単にやってくる。

「望月くん。どうするんだ?これが最後のチャンスだぞ」

まるで私の煮え切られない気持ちを断ち切るような一言に、答えはもう一つしかない。

「……私に、やらせてください」

「良いか?お前は、まず婚約会見で東条宗高のネタを引っ張ってこい」

「ちょ、ちょっと待ってください!会見に出るなんて聞いてな……」

「望月!もう一度言うが、東条太郎と東条宗高は必ずセットだ。お前だって東条を根こそぎ倒すためなら、すべてを投げ打てるんじゃないのか?」

何も迷うことなんてないはずじゃないか。迷わないために彼を切り捨てた。いや、違う。彼があまりにも甘い眼差しで見てくるから、事実を履き違えそうになるが、私は始めから彼に相応しい存在ではないのだ。私が戻る場所など、もうどこにもない。

なのに、今さら彼に会うことを恐れて何になる?彼の中でとっくに時間は進んでいるのに、止まっているのは私だけだ。

これで私の止まっていた時間はすべて進む。だって東条太郎に復讐するために、それだけのために、今まで生きてきたのだから。ついにその日々が報われるんだ。何も生まない愛なんかに、今さら縋っても仕方がない。そんなことしたって、私には本当に何も残らないんだから。

「……もちろんです」

その日は、まるで二人のハレの日を祝うように、見上げた空は清々しいほど雲ひとつない快晴だった。

今思えば、あの日私たちが初めて言葉を交わしたのも、この場所だった。「二十年ぶりの大雪」と言われた日だったが、これからどうやって彼らに同じ苦しみを味わせようかと、闘志で胸は高鳴っていた。奇しくも今日は「二十年に一度の暑さ」だという。なのに、心はまるで氷のように冷え固まっている。

あの日、私がここに来なければ、彼と出会わなければ……と思えたら、どんなに楽だっただろうか。だって彼との日々は幸せだった、宝物のような時間だった。それは決して否定できないから。でも、それはそれ、これはこれだ。もう絶対に混同してはならない。今から待ち受ける光景は、私が隣にいたときの彼ではない。他の女性が隣にいる、私の知らない彼なのだから。

大ホールにはあの時と比べものにならないくらいの記者たちが押し寄せていて、この時ばかりはみんな重たい荷物をどこかに下ろして、見事に全員が嬉々としている。

私も今日は水色の半袖ブラウスに白のテーパードパンツを履き、事前に受付でもらった腕章をつけ、入り口からさらに進んだ中列の席に「週刊三報」と書かれた居場所もある。

もうすぐそこに光は見えているのに、絶対に今日の方が気は楽なはずなのに、こんな神妙な顔をしているのは私くらいだ。
< 69 / 76 >

この作品をシェア

pagetop