この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
群衆の中からいとも簡単に見つけ出され、その眼差しは、また私だけのものになった。一瞬顔つきが変わったようにも見えたけれど、またすぐにきつくこわばらせた表情に戻っていく。
私もあくまでも彼の素顔を知らない、しがない「記者」として他所他所しく問いを投げかける。
「質問、よろしいですか」
「……お名前を」
「週刊三報の望月です」
「望月、さん……どうぞ」
「先代社長に関連して、一つ……」
それは彼も同じだった。もう彼は私の拙い言葉をじっと優しくは待ってくれない。初めて会ったときみたいに、私の発言はすべて彼の勢いに飲み込まれてしまう。
「その質問は、今の会見に関係あるでしょうか?」
「ですが、極めて重大な……」
「ちょっと、君。早くこの記者を連れ出しなさい」
その号令により、まるで最初から誰かを待機させていたみたいに、自分より一回りほど大きな何かに体を拘束され、私はただちに会場から締め出される。
「だから!離してってば!」
「……ごめん」
私がどれだけ暴れても絶対に逃れられなかった力が会場の外に出た途端、急に弱まって申し訳なさそうな言葉まで返ってくる。その声は私も聞き覚えのあるものだった。
「村上くん?」
「社長が社長室で待つように、って」
「なんで?」
「はぁ…ほんと君って鋭いのか。鈍感なんだか」
「ちょっと待って?どういうこと?」
「まあ、直接聞いたら。ほら、言ってるそばからもう来た」
村上くんの言う通り、息を切らしながら革靴の底で地面を勢いよく蹴り上げる音が、どんどんと近づいてくる。
私には村上くんが何を言わんとしているのかよく理解できない。なんだか私だけ、違う世界に取り残されているみたいだ。
後ろに何があるのかと振り向くと、その人の顔を見る余裕もなく、私はそこから連れ去られる。
「秀明、すまない。話は終えたから。あとのことは頼んだ」
今、私の腕を強く引っ張るのは、先ほどまで記者たちから心ない言葉を浴びせられていた、社長だ。
私には私にしかできない、私がやらなければならないことがまだ残っているのに。彼にだって、もっと他に今しなければならないことがあるはずなのに。
でもいくら振り解こうとしても、彼の一段と強い力には太刀打ちできない。向かう先には「社長室」のプレートが見える。このまま彼の後ろについていってしまえば、また振り出しに戻ってしまう。そう思った。
なのに社長室に入ると、私の腕は乱暴に振り解かれ、怒りをぶつけるみたいに聞いたことのない声で遠くから圧をかけてくる。また私の知らない社長だ。
「どういうつもり?」
「こんなことしてる場合じゃないですって!早く戻って、訂正してこないと!」
「君は僕に彼女と結婚してほしいの?」
「それは……」
なんでもう彼にはその場しのぎの嘘がつけないのだろう。あんなに、嘘を塗り重ねてきたのに……今さら真実だけを話したって何も変わりはしないのに。
「違うでしょ?僕はしないよ。何があっても、君が最初で最後の女性だから」
嬉しいのに……嬉しいという感情しかないから、私は絶対口にしてはならないその言葉をつぐむことしかできない。静まり返った部屋の中で、私のスマホが音を立てる。
「出なくて良いのか?」
電話の向こうの声は広がる静寂を切り裂くくらいにあまりにも大きいものだった。
「おい、望月!何を考えてる!あれじゃ、東条太郎に見す見す教えにいってるもんじゃないか!」
その声を聞いた彼は、手の中にあるスマホを半ば強引に取り上げてしまう。
「あっ…ちょっと……」
「父が、どうしたって?……いいですよ、もう気を遣わなくて」
まるで全てを見透かしたように淡々と話を続けていく。
「そもそも事を大きくしたのは僕ですから………ええ、リークした人間とは僕のことです………はい。すべて事実ですので、どうぞお好きなように書いていただいて結構です」
聞こえてくるのはどれも理解し難い言葉ばかりだった。どういうこと?彼は何ひとつ知らないはずだ。ましてや、すべてを知りながら、自分の父親を売ったということ?なんで?これは私が、私が全てを投げ捨てて、突きつけなきゃならない罰なのに。
状況を飲み込むのに必死で身体はすっかり硬直し、もはや呆然と立ち尽くすことしかできない。画面の暗くなったスマホは、彼の手から目の前のソファ用テーブルの上に置かれた。
そして、それ以上近づくこともなく、外のすべてを洗いざらい映し出すガラス窓のそばで、遠くに広がる混乱を眺めながら、ぽつりぽつりと真実を話し始める。
「望月文乃、文宏さんの娘でしょ。君は」
「なんで……なんでそれを知ってて、こんなこと…」
「僕も被害者だからだよ。僕にだって、父に復讐する権利はあるはずだけど」
「……被害者、って?」
「逃げ道のない僕を、救い出してくれたんだよ。そのせいで、文宏さんが……」
「どういう、こと?」
私もあくまでも彼の素顔を知らない、しがない「記者」として他所他所しく問いを投げかける。
「質問、よろしいですか」
「……お名前を」
「週刊三報の望月です」
「望月、さん……どうぞ」
「先代社長に関連して、一つ……」
それは彼も同じだった。もう彼は私の拙い言葉をじっと優しくは待ってくれない。初めて会ったときみたいに、私の発言はすべて彼の勢いに飲み込まれてしまう。
「その質問は、今の会見に関係あるでしょうか?」
「ですが、極めて重大な……」
「ちょっと、君。早くこの記者を連れ出しなさい」
その号令により、まるで最初から誰かを待機させていたみたいに、自分より一回りほど大きな何かに体を拘束され、私はただちに会場から締め出される。
「だから!離してってば!」
「……ごめん」
私がどれだけ暴れても絶対に逃れられなかった力が会場の外に出た途端、急に弱まって申し訳なさそうな言葉まで返ってくる。その声は私も聞き覚えのあるものだった。
「村上くん?」
「社長が社長室で待つように、って」
「なんで?」
「はぁ…ほんと君って鋭いのか。鈍感なんだか」
「ちょっと待って?どういうこと?」
「まあ、直接聞いたら。ほら、言ってるそばからもう来た」
村上くんの言う通り、息を切らしながら革靴の底で地面を勢いよく蹴り上げる音が、どんどんと近づいてくる。
私には村上くんが何を言わんとしているのかよく理解できない。なんだか私だけ、違う世界に取り残されているみたいだ。
後ろに何があるのかと振り向くと、その人の顔を見る余裕もなく、私はそこから連れ去られる。
「秀明、すまない。話は終えたから。あとのことは頼んだ」
今、私の腕を強く引っ張るのは、先ほどまで記者たちから心ない言葉を浴びせられていた、社長だ。
私には私にしかできない、私がやらなければならないことがまだ残っているのに。彼にだって、もっと他に今しなければならないことがあるはずなのに。
でもいくら振り解こうとしても、彼の一段と強い力には太刀打ちできない。向かう先には「社長室」のプレートが見える。このまま彼の後ろについていってしまえば、また振り出しに戻ってしまう。そう思った。
なのに社長室に入ると、私の腕は乱暴に振り解かれ、怒りをぶつけるみたいに聞いたことのない声で遠くから圧をかけてくる。また私の知らない社長だ。
「どういうつもり?」
「こんなことしてる場合じゃないですって!早く戻って、訂正してこないと!」
「君は僕に彼女と結婚してほしいの?」
「それは……」
なんでもう彼にはその場しのぎの嘘がつけないのだろう。あんなに、嘘を塗り重ねてきたのに……今さら真実だけを話したって何も変わりはしないのに。
「違うでしょ?僕はしないよ。何があっても、君が最初で最後の女性だから」
嬉しいのに……嬉しいという感情しかないから、私は絶対口にしてはならないその言葉をつぐむことしかできない。静まり返った部屋の中で、私のスマホが音を立てる。
「出なくて良いのか?」
電話の向こうの声は広がる静寂を切り裂くくらいにあまりにも大きいものだった。
「おい、望月!何を考えてる!あれじゃ、東条太郎に見す見す教えにいってるもんじゃないか!」
その声を聞いた彼は、手の中にあるスマホを半ば強引に取り上げてしまう。
「あっ…ちょっと……」
「父が、どうしたって?……いいですよ、もう気を遣わなくて」
まるで全てを見透かしたように淡々と話を続けていく。
「そもそも事を大きくしたのは僕ですから………ええ、リークした人間とは僕のことです………はい。すべて事実ですので、どうぞお好きなように書いていただいて結構です」
聞こえてくるのはどれも理解し難い言葉ばかりだった。どういうこと?彼は何ひとつ知らないはずだ。ましてや、すべてを知りながら、自分の父親を売ったということ?なんで?これは私が、私が全てを投げ捨てて、突きつけなきゃならない罰なのに。
状況を飲み込むのに必死で身体はすっかり硬直し、もはや呆然と立ち尽くすことしかできない。画面の暗くなったスマホは、彼の手から目の前のソファ用テーブルの上に置かれた。
そして、それ以上近づくこともなく、外のすべてを洗いざらい映し出すガラス窓のそばで、遠くに広がる混乱を眺めながら、ぽつりぽつりと真実を話し始める。
「望月文乃、文宏さんの娘でしょ。君は」
「なんで……なんでそれを知ってて、こんなこと…」
「僕も被害者だからだよ。僕にだって、父に復讐する権利はあるはずだけど」
「……被害者、って?」
「逃げ道のない僕を、救い出してくれたんだよ。そのせいで、文宏さんが……」
「どういう、こと?」