この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
声にした裸の心★
消灯時間が近づくと、父さんは窓の外に広がるひと気も明かりもほとんどない真っ暗闇を見て、私をひどく心配する。それは、まるで小さい頃の記憶が呼び戻されるような瞬間だった。
「こんな夜遅くに、一人で帰るのか?」
「平気、平気!また、明日も来るからね?」
不安気な父さんを安心させるように、私は気丈に立ち上がってみせた。しかし、隣から伸びてきた彼の手によって、その勢いは易々と止められてしまう。私は驚いてその感触に視線を向けると、彼の手も気まずそうに一瞬にして離れていく。
「……僕、送っていくよ」
「いえ。本当に一人で帰れますから」
二人のぎこちない空気を知る由もない父さんは、その場に流れる沈黙すらも奪い、無理やり終わらせた会話さえ思わぬ方向に進めてしまう。
「宗高くん。文乃をお願いしても良いかな?」
「……文乃さんさえ、良ければ」
集中する二人の視線に、私は諦めたようにうなづくことしかできなかった。
「車出してくるから。ちょっと待ってて」
彼はただ耳元で小さく、そう言葉を残して駆け足でいなくなる。そして本当に私を家まで送り届けてくれた。もちろんそれ以上の言葉を交わすこともなかった。そこまでの道をわざわざ教えなくても、鮮明に覚えているようだったから。
もう目の前には我が家が見えている。車もこれ以上進むことはない。でも、私は後部座席に座ったまま、動くことができない。何か言いたい、言わなければいけないのは確かだけれど、車内に漂う重苦しい空気にどこか萎縮してしまっていた。
その沈黙に終わりを告げてくれたのは彼の方からだった。そこには何の感情もない、淡々とした言葉ばかりだった。
「着いたよ」
「あの……」
「どうした?」
「うち、上がっていきませんか?」
「いや、僕は……」
「……先、降りてますね」
彼に答えを出す時間も与えないで、自分でも身勝手なことをしているのはよくわかっている。あれだけ突き放しておいて、今度は自分から歩み寄ってみせるなんて、とことん都合のいい話だ。でも、彼を差し置いて自分だけ前に進む……なんて私にはもっと都合のいい話にしか思えなかった。
私たちは、彼の部屋のものより一回りも二回りも小さなソファに、心ばかり空間をあけながら、横どなりになって座っている。もう肌と肌を合わせながら座ることもない。
「良い家、だな……」
「小さい頃は、父が何でこの家にこだわるんだろう……ってずっと不思議で仕方なかったんです。でも今は、何となくその気持ちも分かるというか……」
「この家を、たった一人で守ってきたんだもんな」
「結局、一人では何もできなかったですけど……」
私はそう笑い飛ばして見せる。だってもう私たちには悲しむ必要なんてないから。私たちは、もう悲しい過去に縛られることなく、これからは明るい未来を生きていいのだから。過去はどうやっても変えられないけど、未来は自分の行動次第で変えていける。彼がそう教えてくれたから。
「僕のわがままに散々付き合わせて、君には本当に悪いことをしたと思ってる」
「えっ?」
「僕が言えることじゃないかもしれないけど、これからはすべての苦しみから解き放たれて、幸せに生きて欲しい」
「幸せに、ですか……」
私の幸せを願いながら、当の本人は見たこともないように弱々しくうなだれている。まるで疎ましい過去を捨てた代わりに、生きる理由を見失っているような……。
私は前のめりになって彼の両頬を掴み、そんなどこを見つめているかわからない視線を自分のものにしてみせた。
すべてが見透かされしまうような広々としたホテルの一室で、嘘を隠すようにそうしたあの時とはまるで違う。もう私には隠すものは何もないから。これは意志の伴った私の心から伝えたいものだから。目を見開いたまま、すべての瞬間を焼き付けるように、ゆっくりと丁寧に優しく唇を近づけた。
「どうして、また……」
「好き……だから。好きな人にキスをするのに、それ以上の理由なんていりますか?」
あの時みたいに私を強く突き放すことはないけれど、今度は彼が何かを隠すようにずっと下を向いている。でも言葉では拒むくせに、その声もいつも以上に甘い。
「いや、でも……」
「宗高さん?」
「はぁ……今言う?それ……」
「私と、幸せになりませんか?」
彼は驚いたようにようやく顔をこちらに見せてくれたが、やっぱりそこに浮かぶのはどこか悲しげな表情だ。
「だから……君は責任感じなくて良いんだって……」
「負い目を感じているとか、そういうんじゃなくて……私は三人で幸せになりたいんです……父さんも、宗高さんも、誰か一人だけじゃ、ダメなんです」
「こんな何もない僕と……?今の僕を見ても、そう言えるの?」
「関係ないですよ。宗高さんは、もう私が嫌いですか?」
彼はそれは違うと言わんばかりに、強く首を左右に振る。
「でしょ?私だって、同じです」
ずっと彼の腕の中で守られてばかりだったから、今日は思いっきりきつく苦しいくらいに抱きしめてみせた。
「ちょっと……」
「もう私たちは、何も気にしなくて良いんですよね?」
「そう、だけど……」
「好きですよ。宗高さん」
やっと言葉にできた。
簡単に見捨てられていたら、私たちが分かり合える日なんてなかったかもしれない。きっと、こんな未来も待っていなかっただろう。
「ありがとうございます。ずっと信じて、待っていてくれて」
「そういう言葉は少しずつにしてくれないかな……一気にこういうことされると、怖くなるから……」
「こんな夜遅くに、一人で帰るのか?」
「平気、平気!また、明日も来るからね?」
不安気な父さんを安心させるように、私は気丈に立ち上がってみせた。しかし、隣から伸びてきた彼の手によって、その勢いは易々と止められてしまう。私は驚いてその感触に視線を向けると、彼の手も気まずそうに一瞬にして離れていく。
「……僕、送っていくよ」
「いえ。本当に一人で帰れますから」
二人のぎこちない空気を知る由もない父さんは、その場に流れる沈黙すらも奪い、無理やり終わらせた会話さえ思わぬ方向に進めてしまう。
「宗高くん。文乃をお願いしても良いかな?」
「……文乃さんさえ、良ければ」
集中する二人の視線に、私は諦めたようにうなづくことしかできなかった。
「車出してくるから。ちょっと待ってて」
彼はただ耳元で小さく、そう言葉を残して駆け足でいなくなる。そして本当に私を家まで送り届けてくれた。もちろんそれ以上の言葉を交わすこともなかった。そこまでの道をわざわざ教えなくても、鮮明に覚えているようだったから。
もう目の前には我が家が見えている。車もこれ以上進むことはない。でも、私は後部座席に座ったまま、動くことができない。何か言いたい、言わなければいけないのは確かだけれど、車内に漂う重苦しい空気にどこか萎縮してしまっていた。
その沈黙に終わりを告げてくれたのは彼の方からだった。そこには何の感情もない、淡々とした言葉ばかりだった。
「着いたよ」
「あの……」
「どうした?」
「うち、上がっていきませんか?」
「いや、僕は……」
「……先、降りてますね」
彼に答えを出す時間も与えないで、自分でも身勝手なことをしているのはよくわかっている。あれだけ突き放しておいて、今度は自分から歩み寄ってみせるなんて、とことん都合のいい話だ。でも、彼を差し置いて自分だけ前に進む……なんて私にはもっと都合のいい話にしか思えなかった。
私たちは、彼の部屋のものより一回りも二回りも小さなソファに、心ばかり空間をあけながら、横どなりになって座っている。もう肌と肌を合わせながら座ることもない。
「良い家、だな……」
「小さい頃は、父が何でこの家にこだわるんだろう……ってずっと不思議で仕方なかったんです。でも今は、何となくその気持ちも分かるというか……」
「この家を、たった一人で守ってきたんだもんな」
「結局、一人では何もできなかったですけど……」
私はそう笑い飛ばして見せる。だってもう私たちには悲しむ必要なんてないから。私たちは、もう悲しい過去に縛られることなく、これからは明るい未来を生きていいのだから。過去はどうやっても変えられないけど、未来は自分の行動次第で変えていける。彼がそう教えてくれたから。
「僕のわがままに散々付き合わせて、君には本当に悪いことをしたと思ってる」
「えっ?」
「僕が言えることじゃないかもしれないけど、これからはすべての苦しみから解き放たれて、幸せに生きて欲しい」
「幸せに、ですか……」
私の幸せを願いながら、当の本人は見たこともないように弱々しくうなだれている。まるで疎ましい過去を捨てた代わりに、生きる理由を見失っているような……。
私は前のめりになって彼の両頬を掴み、そんなどこを見つめているかわからない視線を自分のものにしてみせた。
すべてが見透かされしまうような広々としたホテルの一室で、嘘を隠すようにそうしたあの時とはまるで違う。もう私には隠すものは何もないから。これは意志の伴った私の心から伝えたいものだから。目を見開いたまま、すべての瞬間を焼き付けるように、ゆっくりと丁寧に優しく唇を近づけた。
「どうして、また……」
「好き……だから。好きな人にキスをするのに、それ以上の理由なんていりますか?」
あの時みたいに私を強く突き放すことはないけれど、今度は彼が何かを隠すようにずっと下を向いている。でも言葉では拒むくせに、その声もいつも以上に甘い。
「いや、でも……」
「宗高さん?」
「はぁ……今言う?それ……」
「私と、幸せになりませんか?」
彼は驚いたようにようやく顔をこちらに見せてくれたが、やっぱりそこに浮かぶのはどこか悲しげな表情だ。
「だから……君は責任感じなくて良いんだって……」
「負い目を感じているとか、そういうんじゃなくて……私は三人で幸せになりたいんです……父さんも、宗高さんも、誰か一人だけじゃ、ダメなんです」
「こんな何もない僕と……?今の僕を見ても、そう言えるの?」
「関係ないですよ。宗高さんは、もう私が嫌いですか?」
彼はそれは違うと言わんばかりに、強く首を左右に振る。
「でしょ?私だって、同じです」
ずっと彼の腕の中で守られてばかりだったから、今日は思いっきりきつく苦しいくらいに抱きしめてみせた。
「ちょっと……」
「もう私たちは、何も気にしなくて良いんですよね?」
「そう、だけど……」
「好きですよ。宗高さん」
やっと言葉にできた。
簡単に見捨てられていたら、私たちが分かり合える日なんてなかったかもしれない。きっと、こんな未来も待っていなかっただろう。
「ありがとうございます。ずっと信じて、待っていてくれて」
「そういう言葉は少しずつにしてくれないかな……一気にこういうことされると、怖くなるから……」