この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
エピローグ
「二十年ぶり」と言われたあの日から、季節は一周し、また寒さの厳しい冬が巡ってきた。しかも、「史上最強寒波」と言われるほど、またもや経験したことのない寒さが続いた。
隙間風が絶え間なく入ってくる木造古民家だが、不思議と私にとっては今までで一番温かな冬だった。宗高さんと、劇的な回復を遂げた父と、三人でその冬を越せたから。
そして冬の終わりを告げるように、温かな陽気が私たちを包み込む。
「文乃?そろそろ、店しまうね?」
「はーい」
私たちは店じまいを終えると、お揃いのエプロンを着たまま、歩いてすぐの場所にある自宅まで手を繋ぎながら帰っていた。
厳しい冬を越す前のこと。お弁当屋のおばちゃんが、子供夫婦のいる町に引っ越すことになった。でも店の継ぎ手がなかなか見つからず、悩んでいたところ、宗高さんが名乗りを挙げたのだ。
彼は元々料理が好きだったそうで、見る見るうちにその腕前は上達し、お客さんたちからの評判もとても良い。嬉しいことに、団体客からの予約が続いて、休みもなかなか取れないくらいだ。何より毎日、彼と同じ時間を過ごし、同じ感情を共有できていることが、私はとても嬉しい。
「だいぶ、暖かくなってきましたね」
「ほんとだ。どうりで、今日は君の手も冷たくないわけだ」
同じ歩幅で隣り合って歩いていた彼が立ち止まり、私も合わせるように足を止めた。
「あのさ、文乃……?」
「ん?」
「週末、休み取って、公園にでも行かない?」
「ええ!行きたい!お弁当も持っていきません??」
「……はははっ……もちろん!」
「うーん、何が良いかな~」
私はまるで遠足前の子供のようにワクワクと胸を躍らせながら、星がきらりと輝く夜空を見上げる。すると頬には唇の柔らかな感触が走る。
「誰か見てるかも……」
「仕方ないじゃん。したくなったんだから……」
「もーう……」
「それで?何、食べたいの?」
「そうだな~サンドイッチは外せないし、から揚げも食べたいし……」
「ぜーんぶ、僕が作ってあげるよ」
「ほんと?でも私、何もしてあげられないしなぁ……」
「君には、大事な役目があるじゃん」
「えーなになに?」
「……目覚まし係?」
そう企んだ顔で、からかうように言う彼の唇をすかさず奪って、私は逃げるように明かりのついた家の中に入っていく。
「ちょっと、それは反則だって!」
彼の声もその姿を追いかけるように、明かりの中へと消えていった。
その日は、私たちを出迎えるように、かげりひとつない快晴が広がっていた。約束通り、ランチボックスを持って、緩やかに走る電車の座席にボーダー柄のトップスと青いジーンズを着た男女が並んで身体を預けて、とある公園を目指す。
そこには広大な緑が広がり、大きな木々たちは春の柔らかな風にのって、ゆらゆらと揺れている。その風景は、頭の端っこに隠れていた、小さい頃の記憶を思い出させるものだった。
「この公園って……」
「君も知ってるの?」
「うん。父さんが、小さい頃、よく連れてきてくれたの。宗高さんも?」
「ああ。昔、文宏さんに連れてきてもらった」
「ここが…」
芝生の上に持参したギンガムチェックのレジャーシートを敷き、私の隣にいる彼は気持ち良さげな顔で寝そべって、透き通った空から降り注ぐ太陽の光を全身に浴びている。私は彼の忌まわしい過去を、少しでも幸せな思い出で塗り替えられているだろうか。
いいや。その答えを出すのは、まだまだ先のことだ。私たちには、これからも、もっと、ずっと長い時間が残されている。
「お昼からこうして日向ぼっこできるなんて、贅沢ですね……」
「ああ、とっても幸せだ……」
すると、こちらに向かって白黒のサッカーボールが一つゆっくりと転がってきた。私は遠くから走ってくる、座った目線と同じ高さの男の子に、それを渡そうと手を伸ばす。その上には、私の手を覆うくらいの大きな温もりも、はらりと重なってきた。
驚いた表情の彼と、まるで時間が止まったようにぴたりと目を合わせる。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ボールもらうね?」
「あっ、ごめんね。はい、どうぞ」
「ありがとう」
その子は、元気よくお礼を言って、またボールを夢中になって転がしながら、遠くへと駆け出していく。
「やっぱり子供は可愛いですね」
そんな小さな後ろ姿を見届けて、頭上にある空を眺めるように私も寝そべる。しかし、どこまでも続く広大な空ではなく、彼のいつになく真剣な表情がなぜか目の前にある。
「ねえ、文乃?」
「なーに?」
「また、来ようか。今度は僕と君の、子供を連れて……」
私は上下を交代するように、自分より大きな身体をぐるりと押し返す。バランスを崩さないようにと、背中には彼の腕が優しく添えられている。
「おっ、と……」
「イエス、以外に答えあると思います?ほんとにもーう……」
そうやって二人で額を合わせながら、大きく笑い合う。
今見える景色の先にあるのは、よちよち歩きの我が子が懸命に足を進める姿なのか。先ほどの男の子のように、元気よくボールを追いかける小さな後ろ姿なのか。
はたまた、その子がもう少し大きくなって、一息つくように寝そべると、また今みたいに晴れ晴れとした雄大な空が広がっているのかもしれない。
何年、何十年と見える景色が変わっても、隣にはずっと君がいてほしい。あなたがいてほしい。今みたいに弱い部分も強い部分も、ただ互いの心を補いながら、委ね合いながら、生きていたい。
そんな二人の願いがぴったりと噛み合うように、重なる笑い声は、遠く遠くまで響いていた。
隙間風が絶え間なく入ってくる木造古民家だが、不思議と私にとっては今までで一番温かな冬だった。宗高さんと、劇的な回復を遂げた父と、三人でその冬を越せたから。
そして冬の終わりを告げるように、温かな陽気が私たちを包み込む。
「文乃?そろそろ、店しまうね?」
「はーい」
私たちは店じまいを終えると、お揃いのエプロンを着たまま、歩いてすぐの場所にある自宅まで手を繋ぎながら帰っていた。
厳しい冬を越す前のこと。お弁当屋のおばちゃんが、子供夫婦のいる町に引っ越すことになった。でも店の継ぎ手がなかなか見つからず、悩んでいたところ、宗高さんが名乗りを挙げたのだ。
彼は元々料理が好きだったそうで、見る見るうちにその腕前は上達し、お客さんたちからの評判もとても良い。嬉しいことに、団体客からの予約が続いて、休みもなかなか取れないくらいだ。何より毎日、彼と同じ時間を過ごし、同じ感情を共有できていることが、私はとても嬉しい。
「だいぶ、暖かくなってきましたね」
「ほんとだ。どうりで、今日は君の手も冷たくないわけだ」
同じ歩幅で隣り合って歩いていた彼が立ち止まり、私も合わせるように足を止めた。
「あのさ、文乃……?」
「ん?」
「週末、休み取って、公園にでも行かない?」
「ええ!行きたい!お弁当も持っていきません??」
「……はははっ……もちろん!」
「うーん、何が良いかな~」
私はまるで遠足前の子供のようにワクワクと胸を躍らせながら、星がきらりと輝く夜空を見上げる。すると頬には唇の柔らかな感触が走る。
「誰か見てるかも……」
「仕方ないじゃん。したくなったんだから……」
「もーう……」
「それで?何、食べたいの?」
「そうだな~サンドイッチは外せないし、から揚げも食べたいし……」
「ぜーんぶ、僕が作ってあげるよ」
「ほんと?でも私、何もしてあげられないしなぁ……」
「君には、大事な役目があるじゃん」
「えーなになに?」
「……目覚まし係?」
そう企んだ顔で、からかうように言う彼の唇をすかさず奪って、私は逃げるように明かりのついた家の中に入っていく。
「ちょっと、それは反則だって!」
彼の声もその姿を追いかけるように、明かりの中へと消えていった。
その日は、私たちを出迎えるように、かげりひとつない快晴が広がっていた。約束通り、ランチボックスを持って、緩やかに走る電車の座席にボーダー柄のトップスと青いジーンズを着た男女が並んで身体を預けて、とある公園を目指す。
そこには広大な緑が広がり、大きな木々たちは春の柔らかな風にのって、ゆらゆらと揺れている。その風景は、頭の端っこに隠れていた、小さい頃の記憶を思い出させるものだった。
「この公園って……」
「君も知ってるの?」
「うん。父さんが、小さい頃、よく連れてきてくれたの。宗高さんも?」
「ああ。昔、文宏さんに連れてきてもらった」
「ここが…」
芝生の上に持参したギンガムチェックのレジャーシートを敷き、私の隣にいる彼は気持ち良さげな顔で寝そべって、透き通った空から降り注ぐ太陽の光を全身に浴びている。私は彼の忌まわしい過去を、少しでも幸せな思い出で塗り替えられているだろうか。
いいや。その答えを出すのは、まだまだ先のことだ。私たちには、これからも、もっと、ずっと長い時間が残されている。
「お昼からこうして日向ぼっこできるなんて、贅沢ですね……」
「ああ、とっても幸せだ……」
すると、こちらに向かって白黒のサッカーボールが一つゆっくりと転がってきた。私は遠くから走ってくる、座った目線と同じ高さの男の子に、それを渡そうと手を伸ばす。その上には、私の手を覆うくらいの大きな温もりも、はらりと重なってきた。
驚いた表情の彼と、まるで時間が止まったようにぴたりと目を合わせる。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ボールもらうね?」
「あっ、ごめんね。はい、どうぞ」
「ありがとう」
その子は、元気よくお礼を言って、またボールを夢中になって転がしながら、遠くへと駆け出していく。
「やっぱり子供は可愛いですね」
そんな小さな後ろ姿を見届けて、頭上にある空を眺めるように私も寝そべる。しかし、どこまでも続く広大な空ではなく、彼のいつになく真剣な表情がなぜか目の前にある。
「ねえ、文乃?」
「なーに?」
「また、来ようか。今度は僕と君の、子供を連れて……」
私は上下を交代するように、自分より大きな身体をぐるりと押し返す。バランスを崩さないようにと、背中には彼の腕が優しく添えられている。
「おっ、と……」
「イエス、以外に答えあると思います?ほんとにもーう……」
そうやって二人で額を合わせながら、大きく笑い合う。
今見える景色の先にあるのは、よちよち歩きの我が子が懸命に足を進める姿なのか。先ほどの男の子のように、元気よくボールを追いかける小さな後ろ姿なのか。
はたまた、その子がもう少し大きくなって、一息つくように寝そべると、また今みたいに晴れ晴れとした雄大な空が広がっているのかもしれない。
何年、何十年と見える景色が変わっても、隣にはずっと君がいてほしい。あなたがいてほしい。今みたいに弱い部分も強い部分も、ただ互いの心を補いながら、委ね合いながら、生きていたい。
そんな二人の願いがぴったりと噛み合うように、重なる笑い声は、遠く遠くまで響いていた。